読書日和

dokushobi.exblog.jp

「読書日和」備忘録

ブログトップ

14年04月

a0304335_11123765.jpg
a0304335_11122851.jpg
a0304335_11125617.jpg


『海賊女王』皆川博子
光文社 上巻9784334928926 下巻9784334928933 各¥2,000+税
 16世紀。スコットランドの高地に牧童として生まれたアラン・ジョスリンは、17歳で戦士集団に加わり、アイルランドに渡る。そこで出会ったのは、オマリーの氏族の猛々しくも魅力的な男たちと、赤い縮れ毛を短く切った、10歳の少女グローニャ。闘いと航海に明け暮れる、波瀾の日々の幕開けだった──。(光文社HPより)
a0304335_11124537.jpg

これ! わたしが先月から書きたかったのはこれなのである。
この年末年始の読書はこれのおかげでほんとに楽しかった。

わたくしごとですが、人生のとある時期1年間だけアイルランドにいたことがあった。語学留学という名の遊学であります。
夜な夜な繰り広げられる、パブでの飲めや歌えやの騒ぎに繰り出す楽しさったら、、、。おっとっと、、、べんきょーもしてました(ぼうよみ)。
先住民であるケルト人たちと、イギリス文化、カトリック文化が混じり合って、小さいながら唯一無二の個性を持っている島。お酒だけじゃないんだな~。
アイルランド(ケルト)の本と聞けば、なんでもかんでも手にとりたくなってしまう私ですが、この本はハードルが高かった。なんせ上下巻合わせて4,000円。
それだけでも充分諸事情によりあきらめねばならない類の御本だが、更に! 最初のページをめくるとそこには登場人物一覧が・・・。
おそらくここで挫折する人、ほとんどだと思う。
いまね、数えてみましたよ。ぜんぶ。
ひーふーみーよー、、、と手の指がいくつあっても足りゃんせん。
ざっと、なんと! 73人おった! 73人!!
やー、、しかもこれ全部じゃないのだ。ちょい役なら他にもわらわら。やめるよね、、、。
でもね、わたしは買いました。しかも上下巻一気に。

なぜって、、、、やっぱりストーリーにどうしょうもなく心惹かれるものがあったから。

「最後までイングランドに屈しなかったゲールの女王」
「あの女を呼べ。彼女ならわかる。女王の孤独を」

これ帯の文句。
立場的には対立している二人の女王、エリザベス(英国女王)とグラニュエル(海賊女王)。かたや、イングランドの重責をひとりで担い、アイルランド統一もやり遂げようとしている、孤独な女王。かたや、ケルト民族の誇りと伝統を守りつつ、攻め込んでくるイングランドや他の部族から自身の部族を守ろうと立ち上がる孤高の女海賊。両者は決してお互いに屈しないながら、心の深い部分でどうしても共鳴してしてしまうところがある。その闇の深淵が垣間見える瞬間がすごい。

読み始めて本当にすぐのめり込む。
ストーリーもさることながら、細部に至る描写がすごい。
まるで、自分もそのときその場にいたかのように情景描写、人物描写、心理描写が圧巻の筆致で書かれていて読み手を魔法のように運んでゆく。
例えば、従者アランがエリザベス女王に謁見するグローニャに付いていくシーン。
身につけている武器の類いは徹底的にはずすように言われる。
外側の重みをすべて取り外した後、体が軽くなったことを心もとなく思う場面がある。これが女王に会う前の心情をすごく丁寧にこちらの心にもわき上がらせてくれるのだ。そしてその場にぐっと緊張感をもたらす。
いったい武器なんて手元にない世界に生きながら、そんな部分に気付けるだろうか、、。その無限の想像力にはひれ伏すしかない。
戦闘シーンもまるでその場に降り立ってしまったかのよう。臨場感あふれる展開は手に汗握った。
皆川博子、彼女こそ文壇界の女王だ。御年84歳、まったく守りに入ってないどころか、攻めまくっているその文章を読んで、死ぬほどかっこいいと思ったのだ。(酒井七海)


『星を継ぐもの』
ジェームズ・P・ホーガン/池央耿 訳

創元推理文庫 9784488663018 ¥700+税
 月面調査員が、真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体はなんと死後5万年を経過していることが判明する。果たして現生人類とのつながりは、いかなるものなのか? いっぽう木星の衛星ガニメデでは、地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの巨星が一世を風靡したデビュー作。(東京創元社HPより)
a0304335_1113117.jpg

 舞台は今から数十年後の近未来。月面基地からそう遠くない場所で、宇宙服に身を包んだ一つの死体が発見される。ところが、基地に所属する人間は全員所在が確認された。勿論、月面に於いて基地以外に人間が存在している筈はなく、ならばこの死体は一体どこの誰なんだ? という点がまずは第一の疑問。
 次にこの死体を地球に搬送して、放射性炭素年代測定だのなんだのと詳しい調査を行った結果、死後5万年を経過していることがはっきりする!? は? 誰がどうやったら5万年前に月で死ねるんね? 姿形は人類に似ているけれど、未知の地球外生命体ってことなのか? と、これが第二の疑問。
 更に。件の死体は「チャーリー」と名付けられ、その謎を解明すべく世界中からあらゆる科学分野のスペシャリストたちが招集される訳だけど、生物学的ならびに解剖学的な見地からは「チャーリーは、どこをどうとっても寸分違わず現生人類そのものである」という結論が出る。ハイ? 5万年前に月で死亡したと思われる死体は、謎の宇宙生命体などではなく我々と同じホモサピエンスであると!? そんな馬鹿な!!

 と、ここら辺りまでが起承転結の「起」に当たる。「承」の部分では、現在火星と木星の間に横たわる小惑星帯が、実は大昔は一つの大きな惑星だった、という事実が判明する。ならばチャーリーは、その惑星で進化した生き物なのか?
「いやいや、生物の進化とはそんなに単純なメカニズムではなく、たとえ元々が同じ生き物だったとしても、環境が違えばその進化の道筋は千差万別で、地球外で進化した生命体が人類とそっくり同じになることはあり得ない。よって、チャーリーは地球外生命体などではなく、歴とした人類である」
と主張するのは、主に生物学の博士たち。
「そうは言っても、5万年前の石器人が宇宙服を着て月で死んでる訳がないではないか。地球上の進化に限定された法則を、宇宙にまで適用しようとするのが、そもそもの間違いなのだ。生物学的に、或いは進化論的にどうであろうと、チャーリーは人類ではあり得ない」
そう反論するのは、物理学系の学者たち。
 まぁ、どっちの言い分もそれぞれ一理はあるけど、どっちの言い分も矛盾を百パーセント解消出来てる訳ではない。そして、ストーリーが進むにつれて、チャーリーに関する新たな発見も少しずつ増えてはいく。増えてはいくけど、一つの新発見によって新たな疑問が二つも三つも持ち上がり、調査を進めれば進めるほど真相の解明は遠ざかるという泥沼状態。さぁ皆さんなら、この謎をどう解釈しますか?

 物語は終盤、主人公の着想から一気呵成に解決に向けて進み出す。中盤までに思いっ切り広げられた風呂敷が、あれよあれよという間に畳まれていく。全ての謎が矛盾なく解明された瞬間は、どんな読者であろうと思わず膝を打ってナルホド! と叫ばずにはいられないに違いない。そう、ホーガンの代表作であるこの作品は、ハードSFの金字塔であると同時に、22世紀に遺すべき本格ミステリーの傑作なのだ。

 私自身はこの物語は、今回で三度目の通読。初読の時は、誇張抜きで大興奮! ストーリーの細部を忘れた頃を見計らって再び読んだら、なんとびっくり、また騙された(笑)! 三度目となる今回はさすがに騙されはしなかったけど、パタパタパタッと小気味よく矛盾が解決されていく過程は、何度読んでも気持ちいい。
 冒頭の40~50ページほどまでがややかったるいかも知れないけど、これから初めて本書を読もうとするあなたはめっちゃ幸せ者だと思います。(沢田史郎)


『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉
河出書房新社 9784309021768 ¥1,400+税
 悲しいのに、幸せな気持ちにもなれるのだ――。7年前、25歳で死んだ一樹。遺された嫁のテツコと一緒に暮らし続ける一樹の父・ギフとの何気ない日常に鏤められたコトバが心をうつ連作長篇。(河出書房新社HPより)
a0304335_1113052.jpg

食卓に毎食出てくる柴漬け
夏の夜に庭先で飲むよく冷えたビール
ずいぶん後に思い出してとまらなくなるくすくす笑い
古い本のページにはさまっていた小さな押し花
木の机に彫刻刀で彫られた落書き
何年も花を咲かせなかった桜の木の小さなつぼみ
何度も何度も、何度も何度もくり返し聞いたあの曲
よく使い込まれてぴかぴかに磨かれた革の靴
気になる子に貸してもう二度と使えなくなったまるい消しゴム
毎朝起きると一番最初にするあくび
雨ばかり降っていた週末の雲の切れ間にかかる小さな虹
泣いているその人に寄り添って十年ぶりににぎった手のひら
カレンダーに書きこまれた無数の小さな星
愛想笑いができるようになったと気付いた日の夕暮れ
ふと思いついてコロッケとビールを二つずつ買い、少しだけ急ぎ足になる帰り道
ねこと一緒にひなたでする昼寝
昨夜のカレー
明日のパン

そんな小説です。(酒井七海)


『日本橋本石町やさぐれ長屋』宇江佐真理
講談社 9784062188098 ¥1,500+税
 日本橋本石町やさぐれ長屋。ここに住まうのはみんな事情を抱えた人ばかり。笑って怒って泣いて――心温まる江戸人情物語。(講談社HPより)
a0304335_11132558.jpg

「江戸ものの 生まれそこない 金をため」なんて川柳がある。貧乏人が裕福な商家を皮肉ってるんだろうけど、実はそう言う自分だって質屋から借りたなけなしの小判に向かって、「これ小判 たった一晩 居てくれろ」などと嘆いたりして、やっぱりお金は欲しいのだ(笑)。
 だけども江戸の裏長屋の人々は、貧乏だから必ずしも不幸せである、とは考えない。そこが、いい。
「碗と箸 持ってきやれと 壁をぶち」という句もある。新鮮な魚か田舎から届いた山菜か、何しろめったにありつけないようなご馳走が手に入った長屋の熊さんが、隣の八っつぁんちとの間の壁をドンドンと叩きながら呼ばわっている図。おうい、珍しいもんが手に入ったんだ。茶碗と箸持って食いに来いよ!
「井戸端へ 人の噂を 汲みにいき」なんてのは、亭主を仕事に送り出したカミさん連中が井戸端で洗い物などをしている情景が、ありありと目に浮かぶ。ところが、そんなさなかに突然の夕立。あらあら大変! と洗濯物を取り込もうとしたら、隣の子が雨に濡れたまま遊んでいる。そう言えば母親はさっき買い物に出かけて行ったっけ。そこで自分の洗濯物は後回しにして、取り敢えずその子を家に入れてやる。「夕立に 取り込んでやる 隣の子」。

 そりゃあ裕福な者なら、金で解決出来ることも多いでしょうよ。だけど、毎日おっつかっつで生活している私らはそんなお金、逆さにしたって出て来やしないよ。ならば、困った時はお互い様。身を寄せ合って助け合うしかないじゃないか。だけど、物は考えようだよ。こうして支え合う隣近所があるってことは、ありがたいことなんじゃないかねぇ。

 登場人物たちのそんな会話が今にも聞こえて来そうなのが、良い「長屋もの」の条件ではないかと思ったりする。以前紹介した『かかし長屋』(半村良、集英社文庫)を筆頭に、『人情裏長屋』(山本周五郎、新潮文庫)『橋ものがたり』(藤沢周平、新潮文庫)『深川澪通り木戸番小屋』(北原亞以子、講談社文庫)などなど、世間の片隅で懸命に生きる庶民の姿は、何度読み直そうが決して飽きない。その魅力を一言で言うならば、彼らが皆、幸せの尺度をたくさん持っているという点だろう。

 今回紹介する『日本橋本石町やさぐれ長屋』も、その点はばっちり。家主の名前が弥三郎だから「弥三郎店(やさぶろうだな)」。だけど時に世間からは「やさぐれ長屋」なんてからかわれている、日当たりの悪い裏長屋。そこに住むのは、大工の鉄五郎や錺職人の茂吉、旅籠で手伝い仕事をしているおすぎや居酒屋の女中で稼ぐおとき等、皆々絵に描いたような貧乏暮らしではあるけれど、明るく強くたくましく今日に明日を継いでいく。その秘訣は、小さな事にも感謝出来る心のゆとり。
 例えば第一章「時の鐘」で、大工の鉄五郎が暮れ六つの鐘を聞いてたたずむ場面がある。
【腹に響く時の鐘の音を聞きながら、ああ、今日も無事に一日の仕事が終わったと、ふと安堵が拡がっていた】
まるでミレーの『晩鐘』のようなシーンだけれど、感謝は満足への第一歩であり、満足は幸せにつながっている。足るを知る=「知足」なんて言葉もある通り、些細なことに感謝出来る彼らは、幸せを感じる瞬間を、もしかしたら常の人よりも少し余分に持っているのではなかろうか。一日無事に仕事が出来て、幸せ。あったかいごはんが食べられて、幸せ。子どもが丈夫に育って、幸せ。大きな病気も怪我もなくて、幸せ。……etc。
 そう言えば、庶民が庶民であることの幸せを詠んだ、こんな川柳もあったっけ。
「大名に 木蔭の昼寝 羨まれ」
幸せの尺度は、何もお金や地位だけじゃあないんだよ、ということを私は、長屋ものを読む度にそこの住人たちに教えられる。そして、生きるのが少しラクになる。(沢田史郎)

(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

以下、出版情報は『読書日和 04月号』製作時のもです。タイトル、価格、発売日など変更になっているかも知れませんので、ご注意ください。

a0304335_11131471.jpg
a0304335_11134626.jpg
a0304335_11133692.jpg
a0304335_1114040.jpg
a0304335_11134870.jpg

a0304335_11141314.jpg
a0304335_111421.jpg



編集後記
a0304335_1135346.jpg
a0304335_11353460.jpg

[PR]
# by dokusho-biyori | 2014-03-31 11:36 | バックナンバー | Comments(0)
フェアタイトルそのまんま。無実の罪で追われるサスペンスとか、心が荒んで逃亡旅行に出かけたエッセイとか、旧ソ連の強制収容所から脱走した実話とか、とにかく何しろ逃げる話ばっかり集めてみました。ご笑覧をば。
a0304335_227363.jpg


フェア目録、店頭で無料配布中です!

a0304335_2271823.jpg


作品紹介はこちら!
[PR]
# by dokusho-biyori | 2014-03-12 22:12 | 過去のフェア | Comments(0)

14年03月

a0304335_928339.jpg
a0304335_9294486.jpg


本文はこちら!
[PR]
# by dokusho-biyori | 2014-03-05 09:44 | バックナンバー | Comments(0)