読書日和

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「読書日和」備忘録

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ごあいさつ

丸善津田沼店の有志スタッフが発行しているフリーペーパー『読書日和』のブログです。『読書日和』は2011年10月創刊以来、毎月25日を目途に発刊、店頭でお配りしています。尤も、目標通り25日に出た試しは殆どなく、大抵は28日とか29日辺りにずれ込みます。

あくまでもサークル的な活動であって、必ずしも丸善の公式発表・見解を表すものではありません。オフィシャルな発表に関しては丸善ジュンク堂書店のホームページ等をご覧下さいませ。

頂いた質問やご意見などについては可能な限り返信致しますが、全てに対応することはお約束出来かねます。

以上、あらかじめご了承ください。

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# by dokusho-biyori | 2018-12-31 20:29 | ごあいさつ | Comments(0)
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沢田: と言う訳で、エクスナレッジ『世界を変えた本』の刊行を記念して、座談会を開催致します。テーマはズバリ【俺たちを変えた本】です。まずは、それぞれ自己紹介を。

杉江: こんにちは。本の雑誌社の杉江です。本読みの総本山みたいなところに勤めているので、子どもの頃から本の虫だったように思われることが多いですが、18歳11ヶ月まで殆ど全く本を読んでませんでした。

沢田: そうそうオイラも、若い頃から本好きだったみたいな印象を持たれることが多いんだけど、中学高校は、バスケが上手くなることと女子にモテることの二つしか考えてなかった。

右田: エクスナレッジの右田と申します。親父が出版社勤務だったので、幼い頃から誕生日やクリスマスのプレゼントは常に本。お蔭様で立派な本嫌いになりました(笑)。だってファミコン欲しかったんだもの……。

杉江: この座談会大丈夫ですか(笑)? 出版、書店業界のメインストリームである、幼き頃からの本の虫がいないのでは? 本来はそっちが多いんですが……西尾さんに期待です!

沢田: そろそろ来る頃ですけどね。

杉江: と言った途端に来た(笑)。

西尾: 遅れまして申し訳ありません。右田様は初めまして。杉江さんはいつもお世話になっております。沢田さんは……今日も会ったのでとりあえずお疲れ様です。
 丸善津田沼店で文芸書を担当しております西尾と申します。学生時代からバイトで書店勤めを始めて、気付いたら人生の半分くらい書店にいる計算になります……。

沢田: で、私が進行役も兼ねます、丸善津田沼店の沢田です。皆さんヨロシク。 西尾さん、子どもの頃から読書家だった?

西尾: 子供の頃から本は好きな方だったとは思います。インドア万歳な性格だったので、小学校の図書室とか学級文庫とかは、結構読み漁ってた記憶はあります。ちなみに高校では図書委員でした。

沢田: 待望の、純粋培養的読書人だ。
 俺は、小中高の頃は、「男が本なんか読んでたらカッコ悪い」と言うか、男なら「腕白でもいい、逞しく育って欲しい」的な風潮が強くて、中一の時、国語の教科書に井上靖の『しろばんば』の一部、確か「どんど焼き」の場面が載っていて、面白かったから『しろばんば』を買って読んでたら、周りに馬鹿にされた。

西尾: 私個人としては読書男子素敵ですけど。なんていうか落ち着いた雰囲気があって。

沢田: 俺が小中の頃は「ネクラ」という言葉が流行った時代で、活動的でない人は片っ端から「ネクラ」のレッテルを張られたんだな。だから女子でも、休み時間に自分の机で一人で本読んでるようなのは、「ネクラ」な奴として、少なくとも男子たちの恋愛対象からは外されていたな。

杉江: うちの母親は乱暴で、本を読んでる男の子なんてもやしっ子だと考えてて、5つ離れた兄貴は末は博士かと町で言われるほど本の虫だったのに、本なんか読んでたらダメだ! って放課後、家からほっぽりだされ、大切な本を捨てられたらしいです。それを見ていた弟の僕はとにかく毎日野原というか校庭や近所を駆けずり回る男の子に育ち、本なんか触れちゃいけないもんだと思って暮らしてました。

右田: 本なんか触れちゃいけないってのも凄いな(笑)。

杉江: ところが大学受験に失敗し、浪人して予備校通いをしていた時にどうしても国語の成績が上がらず親友に相談したところ、本を読めと。そいつが杉江にはこれだろと薦めてくれたのが、村上龍の『69』『愛と幻想のファシズム』で、それをまさに寝食忘れて貪り読んで、翌日から人生が全く変わりました。

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沢田: 村上龍は、『だいじょうぶマイ・フレンド』を読んで、これは俺に読まれることを1ミクロンも想定していない小説だな、と悟って、以来無縁。

杉江: その作家の最初の一冊って大事ですよね。『だいじょうぶマイ・フレンド』は最初に読む本では絶対ないです(笑)。

西尾: で、杉江さん、村上龍で人生がどう変わったんですか?

杉江: 何が変わったかというと、人生の主導権が自分にある、って気づいたことなんですよね。それまで親や社会から、いい大学出ていい会社に入らないとダメな人間になってしまうと押し付けられてきたのが、「そんなの全然関係ないじゃん」と教えてくれたんです、本が。それから一気にダムが決壊するように本を読みました。

右田: 人生の主導権が自分にある。これ凄いなぁ。まさに俺を変えた本っすね。

沢田: 右田さんは?

右田: 僕は、19歳で働きもせずプラプラしてたら、見かねた親父に「家を出るか、働くか」の選択を迫られ、飛び込んだ人文書の出版社。ここで、ようやく読書と向き合い始めました。めちゃくちゃ晩成型です。

杉江: 入社して、いきなり営業に?

右田: 商品管理っすね。会社の1階が倉庫で毎日取次の集品トラックが来てました。埃と汗にまみれ、短冊挟んで出荷業務でしたね。たまに取次へ見本出し。ロン毛でGパンなおいらが窓口に並んでると100%白い目で見られましたよ(笑)。

杉江: たまにそういう場違いな人並んでますね。白い目で見てます、私も。でもそれだと本を「物」として接するからより読まなくなりそうなのに、よく本好きに変われましたね。

右田: 編集の仕事もやってて、編集者同士で飯食いに行ったりしたんですけど、そいつらがまぁ賢くて。「なんでそんなに物事知ってんすか?」って聞くと、「本読んでるからだよ」と。ちょいと憧れた。なんかモテそうだし。『ダ・ヴィンチ』買って、読書の習慣をつけようとしたのが始まりですかね。

沢田: うーむ、本を読むようになっても、物知りになった実感は無いな(笑)。

右田: そこなんすよ~。騙されました(笑)。

沢田: あ、でも西尾は30代の女性はフツー使わんし、知らんだろうという語彙を使いこなすよね。あれは多分、読書の賜物だと思う。

西尾: そうでしたっけ?

沢田: こないだも、会話の細部は覚えてないけど、結婚が云々という話をしていた時に、「あたしはどうせ、行かず後家でこのまま独身ですよ」みたいなことを言っていて、「行かず後家」って現実の会話で初めて耳にしたぞ(笑)。

西尾: 学生時代から語彙選択がおかしいっていうか古臭い的なことは言われてましたが……。自分としてはごく普通に使っているつもりなんですが。

右田: で、編集の先輩からオススメとして紹介されたのが筒井康隆。確か『最後の喫煙者』だったかな? ハマった。圧倒的にハマった。そして貪るように読んだ。

杉江: 筒井康隆といえば『文学部唯野教授』読んで、よくわからないけど面白いっていうか世の中にはなんか知らないことがたくさんあるぞって教えられた記憶がありますよ。

沢田: 筒井康隆、読んだこと無いんですよね、実は。

杉江: 今から読んでも、人生変わるかもしれませんよ!

沢田: この歳になって人生変えるの、めんどくせーな(笑)。

西尾: 右田さんの話が進まないじゃないですか(笑)。右田さん、続きを。

右田『虚航船団』は衝撃だったなぁ。内容は文房具vs.鼬というぶっ飛んだ設定。さすがはSF。そして、随所に登場する哲学者と哲学論。とうぜん哲学書など読んだこともなく、チンプンカンプンで理解するのが大変だったけど、何度も読み返した。

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沢田: チンプンカンプンなのに、よく読み返す気になったね。

右田:「これって、もっと本読んでたら、この本もっともっとモアベターで面白いんじゃね?」って。そうした意味で読書のきっかけを与えてくれた本でした。

西尾: なるほど、「よく分らなくてもこんなに面白いんだから、分るようになればもっと面白いだろう」ってことですね。

右田: で、当時話題だった『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル 訳=池田香代子)を先輩から借りて読んだ。そしてほとんど理解出来なかった19の夜でした。

沢田:『ソフィー~』は当時、流行ったよね。俺も何度も挑戦して、その度に寝た(笑)。

杉江: 沢田さんを変えた本は何なんですか?

沢田: 20歳の頃に何気なく読んだ『竜馬がゆく』にが~ん! となった。

西尾: 意外と定番が来ましたね。

沢田: 竜馬が暗殺されるってのは当然読む前から知ってる訳で、結末が分かってるのに感動出来るって事にも驚いたし、何よりも「本で泣けるんだ!?」と、その事にびっくりした。

杉江: 分かります。僕も村上龍に出逢った時は、その瞬間雷に打たれたというか、身体の中にぼうぼうと炎が燃え上がりました。

右田: さすが、炎の営業(笑)。

杉江: あの時、こんなに本って凄いものなのか、ならば俺は本を作るところで働くのだ! と決意し、大学進学をすっぱりやめてしまいました。なので僕ほどこの座談会にぴったりな人間はいないと思います。

沢田: 『竜馬~』の次に出逢ったのが、椎名誠の『哀愁の町に霧が降るのだ』。確か新潮文庫になったばかりじゃなかったかな。今は無き水道橋の旭屋書店で椎名誠フェアみたいなのをやっていて、当時は「フェア」という概念すら知らず、椎名誠なる作家も知らず、まさに本に呼ばれるように手に取ったらびっくり。

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西尾: びっくり?

沢田: 本って、笑えるんだ!! と。初めての体験だったね、小説読んでマンガ以上に笑ったのは。

杉江:『哀愁の町~』は僕も沢田さんと全く同じで、えっ!? 本ってこんなに笑えるの? こんなに面白いの!? って目から鱗が落ちました。

沢田: シーナ文学のあの可笑しさは、衝撃的でしたよね。吹き出すどころではなくて、呼吸困難レベル。革命的だとさえ、思いました。そして、「男なら、酒が飲めなくてはいけないのか」と気付き、とにかく酒の強い男になろうと、ガムシャラにビール飲んでました。真昼間のデートとかでも、相手がコーヒーだの紅茶だの飲んでるのに、俺はビール。そうしないと男がすたると思ってた。

右田: 酒の強い男になろう! っての分かります。北方謙三のおかげで寝酒がウィスキーになりやした。

杉江: 沢田さんの酒じゃないですが、『哀愁の町~』の影響で、男はアパートで共同生活せなばならんと中学の友達のアパートに住み込んでました。

沢田: 俺も、『哀愁の町~』読んですぐの頃、バイク仲間とアパート借りた(笑)。
 で、そのシーナさんが興した『本の雑誌』とはなんぞや? と探したら、当時は多分まだ直取扱いだったんでしょうけど、神田界隈には結構あって、初めて現物を手にしたのは、三省堂だったかなぁ。

杉江: 椎名さんと言えば、僕の人生を変えた2冊目の本は、『わしらは怪しい探検隊』と野田知佑の『新・放浪記』です。これを読んで今すぐ旅をせねば、カヌーに乗らねばと思い、お金を貯めるためにアルバイトを始めたんです。そのアルバイト先が八重洲ブックセンターで、2ヶ月バイトしてカヌー買って仲間と日本中の川を下りました。

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西尾: えっ、カヌー買ったんですか? 凄いですね。

杉江: 僕、子供産まれるまでカヌーイストだったんですよ!

沢田: 想像がつかん(笑)。『本の雑誌』で採り上げられてる本をコツコツ読んでる内に、読書の泥沼にずぶずぶハマッて、バイク通学の途中で三省堂か旭屋に寄って本を買って、日比谷公園のベンチで読みふける、という生活を続けていたら、大学を卒業できませんでした。

杉江: 本の雑誌でアルバイトしようとは思わなかったんですか?

沢田: 本の雑誌社のアルバイトなんて、信じられない読書量でないと無理なんだろうと。だって当時は、書評の文章も半分ぐらいしか理解できなかったような記憶が。因みに、沢野ひとしさんのマンガは難し過ぎて、未だに理解できません。

杉江: あはは。あれは常人には理解できません!

沢田:『本の雑誌』に出逢わなければ、まず間違いなく、本屋にはなってなかったと思います。

杉江: 当時、本屋さんを語るなんて、きっと本の雑誌くらいしかしてないですよね。

沢田: で、別な職業に就いて、もっと給料が良い人生を歩んでいたんじゃないか、と。

杉江: 問題は、給料が良い人生が、イコール「いい人生」なのかどうかってことですよね。
 僕も椎名誠に憧れて、本の雑誌社の求人広告を見つけ、もしかして本人に会えるかもと記念受験してみたら採用されたんですよ。それまで医学書の出版社に勤めていたので、本の雑誌社に転職しなければ間違いなく給料の良い人生を過ごしていたと思います。
 たまに人生としてはどっちが良かったんだろうって考えますが、その時の価値観を育ててくれるのもまた本なんですよね。

沢田: なんか、いい話っぽくなった(笑)。

右田: C・W・ニコル読んでからトレッキングブーツ履くようになった。人生は変わらんかったけど、ニコルによってファッションは変わった。

沢田: 俺は、宮本輝の『優駿』読んで、ダビスタにハマった(笑)。

右田: 最近だと『盤上の向日葵』読んで将棋指したくなったし。影響されすぎなのかしら?

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西尾: なんというか……お三方の話が濃すぎて、私もう傍観者でよくないかな? という気持ちになっております……。

沢田: いやいや、絵本でも教科書採用の童話でも何でもいいから、これ読んで価値観が変わった! みたいな本、あるでしょ。

西尾: 私は逆に、子供の頃から当たり前のように本を読んできたから、そこまで激しい衝撃を受けた記憶が余り思い浮かばないんですよね……。わくわくするのも泣けるのも、登場人物に共感したり反発したりするのも自分の中では普通というか。

杉江: 僕は逆に、西尾さんみたいな人がどうして本を読み続けられるのか不思議だったりしますよ。

沢田: 西尾さんみたいな人って、どんな人?

杉江: いや、僕らが経てきた衝撃的な体験も無く、読書を続けられるというのは逆に凄いなあと。

沢田: あ、そういう意味か。確かに、普段は比較的ドライだよね。

西尾: 読書を続けるということを特に意識したことないですね。そこに本があるから読むのが普通、というか。学生時代なんか、もちろん本も読むんですが、他にも暇つぶしに国語便覧とか辞書読んだりっていうのが私のまわりでは結構普通だったりしたんですが。
 私からしたら、本を読んでカヌー買ったりお酒飲んでダンディズム極めようとしたりするその行動力の方が驚きです。

沢田: こないだ有川浩『旅猫リポート』の感想訊いたら、「なんと、この私が泣きました!」って、自分で「この私が」なんて言ってたね(笑)。

西尾:『旅猫リポート』は泣かせるツボをちゃんと心得ているというか、結構テンプレ的な泣きの構造だったと思うんですよね。だから、普段捻くれてる私でも素直に涙腺直撃されたというか。

右田: テンプレっすか。他になんか無いですか?

西尾: そうですねぇ……小学校低学年の時に読んだ『鬼太郎の天国・地獄入門』(水木しげる)で死生観植え付けられたとかはありますが。

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杉江: 行動力って言うほど大袈裟なものでなくても、影響されたりしませんか?

西尾: 多少の影響はあるかもですが、それを実行に移すかどうかですね。仮に私が『哀愁の町~』を読んで影響を受けたとしても、友人と共同生活は送らないと思いますし。

杉江: いつだか考えたことがあるんですが、本の影響力で人生変えちゃったような人、つまり僕なんですが、いつまでも本に何かを求めているような気がします。ただ物語を楽しむとかでなく、その中から有益な何かを手に入れようとしてるというか、最初のガツンとした読書の追体験をしようと考えながら本を読んでいるような。

右田: 本に何か求めるってのもあるけど、何か始める時に背中をポンっと押してもらいたいってのもあるかな。そして押してもらって走り出す感じ。

西尾: 本に求めるもの……私は多分、自分が経験しえない事を追体験したいのかな、と思ってます。基本は日常を忘れるためのコンテンツというか。

右田: 僕は根っこに音楽があって、高田渡さんの影響で山之口貘の詩集と出会い、無我夢中に読みました。もっとちゃんと音楽やろうと思い、結構高額のギブソンのアコギを買いましたよ。もちろん月賦で。分かりやすい影響ですが、間違いなく俺を変えた1冊です。

西尾: あーそれはありますね。好きな人が「影響受けた」と言った本を自分も読むと。

沢田: それで思い出すのは『北の国から 89帰郷』で、蛍が憧れていたのが、緒形直人扮する和久井で、電車の中で和久井が読んでいた宮沢賢治を蛍も読むんですよね。
 そういう経験が自分にも無いか思い出そうとしてるんだけど、全然無ぇな。

杉江: 小・中と大好きだった女の子と高校卒業したときに本屋さんでばったり再会し、その子が当時大ベストセラーだった『ノルウェーの森』を買おうとしてたので、うちにあるから貸してあげるよって兄貴の蔵書無断で貸したんですよ。貸せばまた会えるでしょ? それなのに返しにも来なけりゃ音信不通だし、それ以来僕は村上春樹が大嫌いになり、人を信じなくなりましたね。

右田: その女の子は杉江さんの人生を変えてくれなかったんすね(笑)。切ない話だ……。

西尾: 人を信じなくなった、という点においては人生変えられちゃっているような気もしますが。

右田: それは先天性かも……(笑)。

杉江: えっ!?

西尾: ピュアだった人が人に裏切られるのを経験するのはとても悲劇ですよ……。

右田: 杉江さん。ピュアでなくて良かったですね。

杉江: あれ!? ピュアだったはずなんだけど……。あっ、ピュアだったら下心満載で本貸さないか。

西尾: この場合、村上春樹さんが流れ弾当たって被害受けてるのがまた……。

杉江: 一度も読んだことないですけどね……。

西尾: わたし、学生時代に書評で興味を持って『レキシントンの幽霊』だけは読みました。結果、余り自分の好みではないという結論に達してそれ以外を読んでないです。
 村上龍は『イン・ザ・ミソスープ』が新聞連載してるときに読んだんですけど、よく分らん、ってなってました。

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杉江: 西尾さん、両方とも最初に読む本じゃありません!(笑)

西尾: 私、初手を間違えてましたか……!

杉江: 僕は村上龍が語った本を片っ端から手をつけました。柄谷行人とか現代批評あたり。書いてあることが全然わかなくてこんなのみんな分らないんだろうと思ってたら、はじめに勤めた医学書の出版社の先輩達がこの手の本を語り合ってて、右田さんじゃないけど衝撃受けました。
 あと、ジャン・ジュネの『泥棒日記』も村上龍が語ってて、買おうとしたらその頃文庫が品切で、箱入りの『ジャン・ジュネ全集』というのを書いましたけど、結局一度も開かないまま人にあげてしまいました。

西尾: そういえば本と言われて小説とかそんなのばかり考えていたんですけど、沢田さん『ドラえもん』は人生変えてないですか?

沢田: うーむ、『ドラえもん』はむしろ、大人になってからの方が、「好き」の度合いが強いかも。小学生の頃は『平家物語』を読んで、多分、子供向けの抄訳版だったんだろうけど、名乗りがカッコよく思えたから一生懸命覚えて、自転車を馬に見立てて「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、やあやあ我こそは~」とかって、鎌倉武士ごっことかしてたな。

杉江: 一言言っておきますが、小学生で鎌倉武士ごっこしてたのは日本で沢田さんただ一人です!(笑)

西尾: 鎌倉武士より、どっちかというと平安貴族の変な笑い方をやってたような記憶が……。

杉江: 平安貴族の笑い方ごっこ!? この座談会どうかしてる!!

西尾: いわゆる麿っぽい感じで「~でおじゃ? ホーッホッホ」みたいな。子供って、そういう変な喋り方真似するじゃないですか?

杉江: しないじゃろ!

西尾: 一つ滅茶苦茶影響受けたのがありました。子供の頃に水木しげるさんの『ゲゲゲの鬼太郎』に触れて、長じて京極夏彦さんの『姑獲鳥の夏』に出会い、そこから『画図百鬼夜行』『桃山人夜話』、柳田国男の『遠野物語』を通って、今は立派な妖怪好きになってますね……。一人で境港に行くくらいには影響受けてますね。余りに日常化していたので気付けなかったです。

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杉江: 水木しげるさんは人生変えますね。最近著作読んでます。妖怪もそうですが、生き方に惚れてます。これから人生変えられるかも。

沢田: あとは小学校4年か5年の時、佐藤さとる『だれも知らない小さな国』読んで、さすがにコロボックルは居ないとは思っていましたが、それでも1割ぐらいは「どこかにいても不思議は無い」と信じていて、昆虫採集で野原を駆け回っている時なんかに、草木の陰に潜んでいないか、気にしてました。

西尾: 小学生の頃本を読んでやった遊びといえば、『ちいちゃんのかげおくり』のかげおくりですかね。自分の影をじっと見つめたあと、空を見るとその影がそこにある、っていうのなんですけど。皆で校庭に出て本当に出来るのかって試してました。
『ちいちゃんのかげおくり』は戦争が題材なので、今やると色々考えてしまいそうですね。当時はそこまで深く考えずに皆でやってましたけど。

右田: 小学一年の読書感想文、『かわいそうなぞう』で賞もらった経験ある。

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沢田; 戦争もので言うと、渡辺清『戦艦武蔵のさいご』が強烈な読書体験だった。空爆の最中の甲板で、「小さな人が踊ってる」ような影が見えたから不審に思って近づいて見たら、膝から下を吹き飛ばされた兵が、懸命に腕を振って歩こうとしていた、とか。

右田: それは強烈ですね。森村誠一の『悪魔の飽食』も強烈でした。

沢田: 731のやつですよね? こないだ、詳細な記録文書が開示されて云々、みたいなニュースありましたね。

右田: 司馬遼太郎『燃えよ剣』に血湧き肉躍り、柴田錬三郎『眠狂四郎』で必殺技に憧れ、隆慶一郎『吉原御免状』で吉原を目指しました。

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杉江: 吉原目指した(笑)!?

沢田:『燃えよ剣』はラストの数行が本当にいい。歳三とお雪の恋愛小説だと思う。

右田: 時代小説の扉を開けてくれたのが司馬遼太郎の『梟の城』でした。めちゃくちゃ面白くて、この作家は忍者作家なんだろなってしばらく勘違いしてました。

沢田: といったところで、そろそろ各々の「俺たちを変えた本」、発表と参りましょうか。

杉江: では僕から。
1、村上龍『愛と幻想のファシズム』
 前述の通り、全く本を読まない人生を過ごしていた18歳の時、友達にすすめられ、一晩で一気読みした後、まさに人生が変わりました。本が面白いと知ったのも大きいですし、自分の人生は自分のものだと教えてもらえた衝撃は今でも忘れません。

2、野田知佑『日本の川を旅する』(品切れ)
 村上龍を読んで、人生が自由だと知り、では自分は何をしたいのか悶々とし出した時にこの本を読み余りの自由さに憧れ、自分もカヌーを買い求め旅に出ることにしました。人生、好きなことをしていい、それを実践してみた最初の一歩です。

3、藤脇邦夫『出版幻想論』(品切れ)
 一番したいのは出版社で働くことだと気づいて、どうにか潜り込んだ出版社で任されたのは営業でした。人見知りだし、ペコペコ頭下げてダサいし、出版社はやっぱり編集だし、と思っていた自分に、出版営業の誇りを植えつけてくれた本。

4、目黒考二『本の雑誌風雲録』
 ひょんなキッカケで夢だった会社で働けることになったのですが、実はそれまで椎名誠のファンだったものの『本の雑誌』自体は読んだことがなく、働き出して不安な中、社史でもあるこの本を読みました。この本の中には、本の雑誌が大切にしなければならないことが全て詰まっていて、今でもときおり読み返し、間違ったことをしていないか確かめてます。

5、高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』
 これまで紹介した本は全て読んで人生を変えられた本ですが、この本は作ったことで人生が変わりました。大好きで、伴走してきた作家さんの代表作を作ることができ、しかも賞まで頂き、そして転覆しかかっていた会社の状況も売上によって支えることができました。自分の人生で、一番達成感を味わえ瞬間をこの本から頂きました。

番外編、ちばあきお『キャプテン』 『プレイボール』
 人生を変えた本というよりは、バイブルです。中学生で読んで以来、毎年、年に2回読み直してます。人生に大切なことはみなこの2冊から学びました。

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一同: おー、凄い。

右田:『出版幻想論』『本の雑誌風雲録』は未読ですが、杉江さんが選ぶとガチですね。

杉江:『出版幻想論』は白夜書房の営業の人が書いた本で、これも後にバイブル的に読んだ土田世紀の漫画『編集王』に出てくる営業マンみたいな人でカッコよかった。編集者が独りよがりで作った本がどれだけ本屋さんで迷惑かけてるか、みたいな感じで。

右田: 僕の営業的バイブルは杉江由次著『炎の営業日誌』かなぁ。未読だけど……。

杉江: 未読かよ(笑)!

右田: 野田知佑は『BE‐PAL』読んでた19、20歳の頃は憧れたなぁ。それこそ自由な感じで。まぁ単純に仕事したくなかっただけなんすどね……。

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杉江: あの頃、『BE‐PAL』ってある種、ライフスタイル誌だったのかもしれませんね。僕も毎号欠かさず買って、野田さんの連載や様々なアウトドアの特集をむさぼるように読んでました。
 なんか働きたくない、というよりはサラリーマンになりたくない、サラリーマン=ダサいって思い込みが強かったです。

右田: ホントそれです。ただ僕は杉江さんみたいにカヌー買うほどガチではなかったですよ(笑)。

沢田: 僕の5冊は、以下順不同で。
● 司馬遼太郎『竜馬がゆく』
 繰り返しになるけど「本で泣ける」ということを初めて知った作品。

● 椎名誠『哀愁の町に霧が降るのだ』
 これもさっき述べた通り、「本で爆笑する」という初体験の作品。そして、シーナさんの生き方と言うか、真っすぐさに強く惹かれた。若い頃に色々体験すると、あーいういい顔したおっさんになれるのだな、と思った。

● 本の雑誌社『本の雑誌』
 杉江さんへのサービスではなく、この雑誌と出会っていなければ、絶対に俺、本屋になんかなってなかった。本って、そんなに深いんか!? と。それほどのものを、ちょっとでも読み逃すのは人生の損ではないか!? と。そう感じてずぶずぶと本の世界にハマッていった。
 あと2つか。5冊に絞るの、難しくないっすか?

西尾: 5冊って言い出したの、沢田さんじゃないですか。

沢田: うーむ。では4冊目と5冊目。
● 半村良『かかし長屋』
 司馬遼の歴史小説はともかくとして、完全フィクションの時代小説なんか読んだ事なかったのに、当時、なぜこれを手に取ったのか謎。呼ばれた、ってことでしょうか。時代小説の面白さを初めて教えて貰った作品。貧乏人たちが支え合って暮らしていく姿が清々しくて、今まで何回読み直したろう。これの影響で江戸庶民の暮らしに興味が湧いて、一茶の俳句とか江戸川柳とかに随分首を突っ込んだ。

● 宮部みゆき『龍は眠る』
 ミステリーでもあり、サスペンスでもあり、ファンタジー(超常現象もの)でもあり、青春小説でもあり、恋愛小説でもあり、っていう現代の複合型エンタメを、多分これで初めて堪能した。それまで読んできたミステリーと違って、「謎解き」だけがどでーんと真ん中に居座っているのではなくて、他の要素と並列的に、物語に惹き込むための〝 幾つかの魅力の一つ 〟でしかないと言うか、要するに、読んでいて惹き込まれる要素が「モグラたたき」的にあっちやこっちから次々に顔を出すという点に、本当にびっくりした。ミステリーって、面白いんだな! と初めて感じた。

番外編、片岡義男『彼のオートバイ、彼女の島』
 品切れだから番外。とにかくひたすらバイクに乗りたかった高校生の頃の〝 背伸び本 〟が片岡義男でしたね。『湾岸道路』とか『スローなブギにしてくれ』とか。カッチョイイ大人とは、疲れた顔で通勤電車に乗るのではなく、バイクに乗って、夜は暗い部屋でジンを飲むものなんだと思った。今なら、東本昌平の『RIDEX』とか『雨はこれから』なんかが、かなり近い雰囲気を醸し出してる。『彼のオートバイ~』を読んでなければバイクに乗っていなかった、かどうかは分らんが、確実に背中を押された。どこか復刊してくれんかな。

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杉江: 沢田さんの『かかし長屋』と『龍は眠る』めっちゃ意外です。でもほんとめっちゃ面白いですよね!! 半村良は『どぶどろ』も面白いし、酒場ものも大好きです。

沢田:『どぶどろ』ちょっと暗くてなぁ。『かかし長屋』は、時代物なんか読んだことなかったのに何故手に取ったのか、今となっては全く分かりません。

右田:『かかし長屋』は初めて沢田さんにオススメされた本です。ホント面白かった! 市井ものでは最上級で半村良の見方が変わった一冊ですよね。

沢田:『龍は眠る』は、二十数年前、宮部みゆきがとにかく大流行していた時期に流されるようにして買って読んだら、それから暫く、宮部みゆきにハマりました。

右田: 宮部さんは基本時代物ですが、最近の『荒神』もすごく良かった!

西尾: 私も右田さんと同じで宮部さんといえば時代物、な人間ですが、現代物なら『淋しい狩人』が好きですね。

沢田『火車』が直木賞逃した時に、『本の雑誌』で「今年の直木賞をやり直す」みたいな特集ありましたよね。

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右田: 凄い企画っすね(笑)。流石です。

杉江: そんな特集しょっちゅうです(笑)。

沢田: 次、西尾さんいこうか。

西尾: 私の5冊ですが、人生振り返って滅茶苦茶考えてみました……。
● 水木しげる『鬼太郎の天国・地獄入門』(品切れ)
 初めて明確に死というものを意識させられた作品。生前の行いが死後に影響すると知って、読んでしばらくはそれまでの自分の行いはどうだったのかとか、死ぬことが怖くて仕方なかった記憶。水木先生は私の人生の方向性を決定付けた方でもありますね。妖怪好きという。

● ボルフ『深夜の幽霊ドライバー』(品切れ)
 小学生の時、学級文庫にこれがあって、いわゆる少年探偵団モノとしては乱歩よりも先に出会った作品。謎あり冒険あり恋愛ありで、今思えばミステリ好きになった原因はこれなのかな? と。学年が上がるとき、本を処分するから好きなの持って帰っていいと言われたので、持ち帰った思い出。ちなみにまだ持ってたりします。

● 夢野久作『ドグラ・マグラ』
 初めて読んだのは高校生の時、余りに頭に入ってこなくて途中で読むのを断念しました。それから何回か挑戦するも、いつも同じところで挫折。それまで、合わないと思った本でもとりあえずは読了できてたので、世の中にはどれだけ頑張っても読み通せない本があるということを教えてくれた1冊です。結局5回目くらいで何とか読み切りましたが、あんまり記憶に残ってません。今読んだらちゃんと頭に入ってくるかもですが。

● 遠藤周作『沈黙』
 大学の授業で映画を見て、それから原作という流れでした。信仰と生きることと死ぬことと。命を擲っても守りたいものを自分は持っているのか、これから持てるのか。今でもふとした時に登場人物たちを思い出して、そういったことについて考えます。

● 茨木のり子『自分の感受性くらい』
 本と言うより、この詩ですね。高校卒業の時、古典担当の先生がこの詩を朗読してくれて。基本豆腐メンタルなネガティブ人間なので、心が折れそうなときやネガティブが行き過ぎそうになったときにこの詩でリセットを心がけてます。

 このうち、『深夜の幽霊ドライバー』は品切れなので他を一つ。
● クラフト・エヴィング商会『すぐそこの遠い場所』
 これに限らず、クラフト・エヴィング商会の本は好きなのですが。本の中で紹介される、あるわけないと思いつつ、でもひょっとしたら実はどこかに本当にあるんじゃないかと信じたくなるようなアイテムや物語を見ていると、想像力を刺激されます。小説とは違った意味で、本の世界で遊ぶ楽しさを教えてくれた1冊とでもいいましょうか。
 人生を変えたではなくて、今の自分の根幹を成したというか、方向付けた本たち、というべきなのかもですが

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杉江: おおおお! 西尾さんの5冊素晴らしい。やっぱりこういう感じで本を薦められるとめっちゃ読みたくなりますね!

沢田: ジャンルがめちゃめちゃだな(笑)。『鬼太郎の天国・地獄入門』は、『鬼太郎の天国と地獄』ってタイトルで復刊してるようだ。

西尾: クラフト・エヴィング商會さんは、装丁や帯なんか全部揃って一つの作品、ってところも大好きです。『らくだこぶ書房21世紀古書目録』の「すでに未来はなつかしい」ってフレーズなんて心に静かに沁みますね。数年前にあった世田谷文学館の展覧会もめちゃくちゃ面白かったです。

沢田: 茨木のり子は、女性エッセイの棚で若い女性向けにアピールしてもいい本かも知れない。多分、今の子たちにも響くと思う。

西尾: 茨木のり子さんは鉄板といえば鉄板ですね。私の中では石垣りんさんとならんで強い女性詩人二大巨頭みたいな感じですが。

右田:《 自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ 》茨木のり子に怒られてみたい……。

西尾: 優しい言葉ではなく、この少し突き放したような感じがいいのだと思ってます。自分を客観的に見られるので。

沢田: じゃ、トリは右田さんで。

右田: ちょいと青くさいですが、おいらの5冊です。
1、司馬遼太郎『梟の城』
 時代小説の扉を開けてくれたのが司馬遼太郎の『梟の城』でした。めちゃくちゃ面白くて、この作家は忍者作家なんだろなってしばらく勘違いしてました。

2、子母澤寛『新撰組始末記』
 そして、今なおメインに時代物を読み続けるに至った決定的な1冊がこれ。もう夢中で繰り返し読みました。ほかの時代小説→新撰組始末記→ほかの時代小説→新撰組始末記な感じで。僕にとっての『新撰組始末記』は時代小説におけるベースキャンプみたいな感じです。

西尾: 時代小説におけるベースキャンプって、いい表現だな。

右田: 続いて3つ目
3、山之口貘『山之口貘詩文集』
 高校時代に出会い衝撃を受けたフォークシンガー高田渡さん。彼がこよなく愛した詩人が山之口貘。沖縄の貧しい人々の目線から生まれる詩の数々かたまらなく素敵で、どっぷりとのめり込んだ。
 ぼくが今でも弾き語りを続けていられるのは、この2人に出会えたお蔭です。

4、筒井康隆『虚航船団』
 宇宙空間。ホチキス、コンパス、雲形定規などの文房具たちが繰り広げる虚構の冒険。筒井ワールド全開の摩訶不思議な世界。もうこれで筒井康隆にどハマりしました。未だにふざけた思考で世の中を見てしまうのは筒井康隆のせいなのです。できれば責任とってほしい……(笑)。

5、ニック・ホーンビィ『ハイ・フィデリティ』(絶版)
 好きな女の子のためにテープを編集し、フラれた女の子の思い出順にレコードを並び替える。どこまでも青くさいダメな男の姿が自分と見事に合致し、「これ俺だよな〜」と苦笑いしつつ何度も繰り返し読んだ1冊。

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杉江:『ハイフィデリティ』、僕も好きです! 僕の場合は同じ著者の『ぼくのプレミアライフ』がこれ俺だよ! と思えるサッカーサポ本です。

右田: プレミアライフもいいっすよね。ハイフィデリティには逆に救われたたかな。また大人にならなくていいんだって。つまりは、両方とも童貞感満載なんすよ(笑)。

沢田: これで全員の「俺たちを変えた本」が出揃った訳ですが、思いがけず読書人生を振り返るような座談会になりましたね。

杉江: 肝心の『世界を変えた本』の紹介が、これまでほゼロなんですが(笑)。

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右田: おっと、いけねぇ。それでは、少し真面目に。
『死者の書』、『ケルズの書』、『兵法』、『源氏物語』、『君主論』、『種の起源』、『アンネの日記』、『星の王子さま』……。
 人類史に刻まれた名著の数々を美しいビジュアルで解説。内容だけでなく装丁やデザインなど〈 物 〉としての美しさにも焦点を当てつつ、壮大な知の遺産をたどる。 精巧な中世の彩飾写本、最初のメディア革命ともいえる世界初の印刷本、人間の宇宙観を転換させることになった科学書、偉大な小説とその挿絵……。古今東西、あらゆるジャンルから厳選した80冊以上を、その本が登場するまでの背景や後世に残したものを含めて、鮮やかに描き出した1冊です。

西尾: この造本で本体3,800円は、安いですね。

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沢田: 色鮮やかな原書を眺めながら、気になる本を今読める形で読むってのも一興だな。河出文庫の『神曲』とか中公文庫の『君主論』とか角川ソフィアの『孫子の兵法』とか、『世界を変えた本』の写真見ながら読めば頭に入りそう。

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西尾: 『不思議の国のアリス』とか『オズの魔法使い』あたりは、今でも充分に「オシャレ」で通る装丁ですね。

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杉江: これがTシャツの柄だったらカッコイイ。

沢田: 他にもイソップだとかシェイクスピアだとかアダム・スミスだとかアインシュタインから毛沢東まであって、まさしく「世界を変えた」本たちだね。

杉江: これらと、僕らの「俺たちを変えた本」って、並列で語っちゃっていいんですかね? 冒涜になりませんかね(笑)?

沢田: 冒涜って(笑)。

杉江: まあでもこれからもいろんな本を読んで変わっていくんだと思うんですよね。どんな本に出会ってどんな自分になっていくのか楽しみです。

西尾: 今回改めて自分と本の関係を振り返ってみて、自分にとって本というのは呼吸や睡眠みたいな、普段意識していないけど、生きていく上で不可欠なものなのだなぁと思いました。人生を変えるというより、積み重なって蓄積される人生の一部というか。その蓄積の仕方で今後の人生も微妙に方向の修正がなされるのでしょうが。

右田: 今までに出会った本によって自分がどう変わったかは分からないけど、確実に人との繋がりが増えた。そんな「本を語り合える環境」にいられる幸せ、そしてその繋がりからの影響、自身の変化を、これからも楽しんで行きたいものです。



【世界を変えた本と俺たちを変えた本】座談会小冊子、丸善津田沼店店頭にて無料配布中です! 御用とお急ぎでない方は、是非ともお立ち寄り下さい!!
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# by dokusho-biyori | 2018-08-13 11:34 | 開催中フェア | Comments(0)

18年08月

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8月の風に乗って――文藝春秋業部 川本悟士
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 夏休みということで、いつもよりもちょっとだけ違う人が読むのかもしれません。ということで今回は少しだけ社会科の先生のような語り口でお送りいたします。

 それにしても暑いですね。最初は七月の三連休が暑いときいていたのですが、次第にその翌週、7月いっぱい、8月上旬まで……とどんどん暑さの期限が延びています。まるで宿題をしない学生の言い訳みたいですが、その分だと8月過ぎても暑かったりしそうなので今回は考えないでおきましょう。

 そんな8月ですが、夏といえばみなさんどんなことを思い浮かべるでしょうか。年齢が上がるにつれて、段々と概念としての夏といいますか、イメージとしての夏が好きになりました。実にジジ臭い話ですね。キンキンに冷やしたスイカ、花火、夕立に入道雲。風鈴の音に蝉の声、抜けるような青空。プールにでも飛び込めばもう、夏休みだ! という感じですね。社会人になると夏休みという言葉に異様な興奮を覚えるようになるようです。私もすべからくテンションが上ります。まあ現実に上がるのは気温ばかり……。外に出たところでテンションはだだ下がるので、あくまで好きなのはイメージとしての夏でしかないのですが。

 そんな8月ですが、広島出身の私にとってはなんだかんだ、終戦とは切っても切れない関係です。もしかしたら学校でそういうテーマに取り組むことになった学生さんもいらっしゃるかもしれません。なので、そんな人たちに少しくらい役立てるように、今回は戦争に関した文庫からお話しましょう。

 まず、課題に取り組むのであれば、「名作」に当たるのがいいでしょう。第二次大戦にかかわる名作のひとつといえば、やはり玉音放送までの1日を描いた『日本のいちばん長い日』だと、私は思います。



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 これは複数回映画化されている作品で、映画を見比べるのも一興です。簡単に言ってしまえば1945年、ポツダム宣言受諾を知らせる玉音放送を巡って織りなされる24時間の人間模様を描いたノンフィクションの傑作です。決して、当時の会議にのぞんだ人たちもサイボーグではありません。人間として、部下を背負い、立場を背負い、家族を背負い、自分自身の人生を背負って、そのうえで発言を重ねていました。いち人間として、「登場人物」たちをみることができるようになるかもしれません。

 次におすすめなのが、『昭和16年夏の敗戦』です。太平洋戦争での日本の敗戦は、昭和20年夏です。が、その4年前、アメリカとの戦争の経過を予測せよ、という極秘の命令のもと、日本中のエリートが集められていた、というノンフィクションです。その名も〈 総力戦研究所 〉。どうでしょう、実にドラマチックにすぎると思いませんか。私は最初思いました、いやどこのアニメかと。ところがこれを読むと、〈 総力戦研究所 〉に集まった精鋭たちがどれだけ知恵を絞り合い、その上でも日本の敗戦を導きだしたのか、思わず胸の熱くなる展開が続きます。いやまあ、一番の(色んな意味で)胸が熱くなるのは、どうしてその結果が出た上でも日本は開戦に踏み切ったのかというポイントなんですが。この2冊を読んで、私は教科書に書かれていた人名が、たんなる記号ではなく、生きていた人間なんだと妙に腑に落ちました。ああ、俺だったらこのなかで、どういうことが言えるかなぁ……と。

 と、ここまで読むとなんとなく〝 方向性 〟が決まってきそうですね。では最後に、一番私が好きで、そして一番むずかしいと思っている、もっとも短いものをおすすめしましょう。『格差ゲームの時代』(品切れ重版未定)にある、「広島とHIROSHIMA」です。あまりに短いので、かえってまとめないほうがいいかもしれません。なので多少文章の背景的なところから。



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 著者は、1963年広島生まれの男性です。ただし、広島市内をルーツにもつ方ではありません。当時の広島に、そして広島を巡る言説のなかで生活した、ニューカマーの実感。その視点からの、広島、原爆、そして戦争というものの〝 引力 〟が語られています。この〝 引力 〟をいいかえれば、絶対的な正義のもつ〝 磁力 〟といってもいいでしょう。描かれているのは、そのような力に対する〝 嫌な感じ 〟です。《 一つの正義は正義であることによってその外部を消し去ろうとする。/そういう意味の磁場に身をゆだねることが、子どもの私にはできなかった。拒否した、なんてかっこいいものじゃない。ただ、できなかったのだ。あえて成長という言葉をつかえば、私はいまだその子どもから一歩も成長していない。だから、正義を考えつづける。正義と別の正義を考えつづけている。/それが私にとっての戦争と平和である 》

 私は、いつもこの最後の文章が胸に残ります。

 戦争に関するこうした本を読むたびに、私は自分が、気を遣う割には空気に乗り切れない人間なんだなぁとしみじみ思います。でも、きっとそういう人は世の中の人が思うよりも、ずっとたくさんいるのでしょう。息苦しいなぁ、とか、周りの流れに乗れないなぁ、と思うこともみんなたくさんあって、でもそれは、たぶんに普通のことなんだと思います。だからこそ、自分と同じような「普通の」人たちがどんな現実を乗り越えてきたのか。その現実に、自分ならどうできただろう。一方でそんなことを考えながら、他方で「腹が減ったな」とそうめんをすする。かつて戦争の終わった暑い夏の日だからこそ、そんな甘い物としょっぱい物を交互につまむような毎日を、いつもより少しだけ大事にしたいと思います。



残 る 言 葉 、 沁 み る セ リ フ
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《 国を愛する心は、上から植えつけられるものでは断じてない。まして、他国や他の民族への憎悪を糧に培われるものであってはならない。
 人が持つあらゆる感情と同じように、思いやることから始まるのだ。そして信頼と尊敬で、培われていくものなのだ。 》


 西でも東でも北でも南でも、国際情勢が何だかギスギスしてきた昨今、何の力も持たない一般庶民の僕ら一人一人が上記の如き思いをシェア出来たら、悲しいニュースは激減するんじゃなかろうか。終戦記念の8月に、是非読んで欲しい作品の一つです。



お仕事小説で前を向く その2――丸善津田沼店・沢田史郎
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 先月の余勢を駆って、引き続き〈 お仕事小説 〉の巻。

 藤原伊織と言えばハードボイルドのイメージが圧倒的なんだろうけど、実は一般の勤め人、所謂サラリーマンを主役に据えた傑作も幾つか遺してくれている。中でも『シリウスの道』は藤原伊織らしさが満載で、乱歩・直木ダブル受賞の『テロリストのパラソル』よりも、こちらの方こそが代表作だと僕は思う。

 背景は、生き馬の目を抜くが如き広告業界。18億円という巨額の新規競合案件を軸に描かれるのは、プレゼンに向けた新チームの発足とその練成、丁々発止の派閥争い、仕事への誇りと情熱。更には25年前、まだ中学生だった主人公たちの友情と淡い初恋が挿入され、戻れない過去への郷愁と未練を行間に滲ませながら、しかもハードボイルドの香気はしっかりと全体に行き渡らせるという、読みどころ満載、まさに神業のような小説だ。とりわけ強調したいのは、新人営業マンの成長物語としての一側面。決して物語の本流ではないものの、なまじの小説やマンガ、映画などには及びもつかぬ爽快なエピソードの連続に、ザワザワと胸が波立つような興奮を誰もが覚えるに違いない。

 主人公の辰村は38歳で、東邦広告の営業副部長。弱電メーカー大手の大東電機が新規事業に進出するに当たり、その広告展開を18億円の規模で競合にかけるという。指名を受けて競合に参加することになった東邦広告は、辰村と上司の立花を中心に新チームを立ち上げ、プレゼンまでの怒涛の1ヶ月がスタートする、という幕開け。

 そこで登場するのが、広告業界1年目、25歳の戸塚青年。《 超大型のコネ 》で途中入社してきただけに社内のあちこちで《 バカ息子 》と噂されているものの、辰村だけは早くから伸びしろを見抜いて、彼なりのやり方で広告営業のなんたるかを叩き込む。その千本ノックのようなしごきに対して、戸塚の方も、時には涙を流しながらもガムシャラに齧りつく。


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 例えば、あるトラブルを収束させるために、戸塚が誇りも沽券もかなぐり捨てた行動に出たと、辰村が知ったその直後の描写を引用してみる。

《 辰村は「戸塚」と声をあげた。「泣くな」/「はい」/「背筋をのばせ。胸を張れ」/「はい」/ゆっくりと顔をあげ、やがて戸塚がまっすぐにこちらを見た。/「そうだ。仕事をやるときゃその姿勢でいつも胸を張ってろ。こっちが向こうの会社より図体がでかいからいうんじゃない。そいつがまっとうな仕事のやり方だからだ」/戸塚はうなずいた。そして口を開こうとし、ふたたび閉ざした 》

 どうだいこの、厳しさでカムフラージュされた愛情は! 以降、全力で辰村の期待に応えようと精進を続ける戸塚青年のガッツに、誰もが目を離せなくなること請け合いである。その感動と興奮は、喩えるなら『SLAM DUNK』の全国大会1回戦。庶民シュートしか出来なかった花道が、特訓の末に会得したジャンプシュートを成功させた、あの瞬間の洋平たちの心持ち。そう、《 巣立つヒナ鳥を見る母鳥の心境 》ってやつである。

 とは言え、この物語の本筋は多分そこではないんだろうな、ということにも気付いてはいる。

 例えば、欲得と自己保身しか頭に無いような重役連中に足を引っ張られながらも、ジリジリとゲインを重ねるチーム辰村の奮闘だったり、少年期の辰村が、大阪の貧しい下町で培った友情だったり、その頃のとある事件が、太陽の前を横切って一瞬陽射しを遮る雲のように、大人になった辰村たちの人生に時折落とす陰だったりといった具合に、この物語にはとにかく読みどころが満載で、挙句の果てには『テロリストのパラソル』にまで細~く繋がっていたりもして、ファンには勿論、藤原伊織初体験の読者にとっても、巻を措く能わざる傑作であることは間違いない。



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 それでも僕は、何度読んでもどうしても戸塚に感情移入してしまう。ある重要な会議で司会を任された戸塚が、誰からも見えないテーブルの下で、ハンカチを握りしめて緊張に耐えている場面など、思わず「ガンバレ!」と声をかけずにはいられない。ハードボイルドと括られると腰が引ける読者もいるかと思うが、そんな単純な色分けが如何に無意味か、読めばきっと分かる筈。

 2007年にまだ59歳の若さで食道癌に斃れた藤原伊織が、もし今も健在であればきっと世に送り出したであろう未知の傑作を思うと、残念なこと極まりない。

 営業マンの話をもう少し。

 例えばあなたが、接着剤メーカーの営業職だったとして、「〝 接着力がゼロ 〟の新商品を売って来い」と言われたら、如何にする? そんな無茶な、と思うよね(笑)。その無茶な社命を受けたビジネスパーソンたちの四苦八苦。

 今野敏と言えば取りも直さず警察小説の第一人者であるけれど、ヤクザが荒廃した私立高校の立て直しを図る『任侠学園』のように――先日、最新刊『任侠浴場』が刊行、堂々のシリーズ4作目――ユーモア満載の作品も実は得意にしている作家で、トゲの無いジョークの隙間に時折しのばせる人間愛と言うか人生肯定のメッセージは、一度味わってしまうと癖になってやめられない。

 そんな今野敏コミカルバージョンで、僕が最も推したいのが『膠着』

 舞台は老舗の糊メーカー〈 スナマチ 〉。そのやり手営業マン本庄史郎と、その部下で入社数カ月の丸橋啓太の許に、〝 極秘会議 〟への出席要請が届く。何事かと首をひねりながら御殿場工場に赴くと、開発部の担当者は開口一番、新製品の開発に失敗したと宣言する。

《 「結論から申し上げます。出来上がった接着剤は、ええ、そのう、接着能力がありませんでした」/啓太は再びのけぞりそうになった。接着力のない接着剤……。じゃあ、それはいったい何なのだろう 》。



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 そもそもは、耐熱性に優れて、人体に付着しても安全で、なおかつ電導性も確保した画期的商品を目指していたらしいが、

《 接着剤の宿命みたいなものなのですが、付加価値として何かの機能を持たせようとすればするほど、接着力が弱まる傾向があります。今回もある程度それを予想していたのですが、まさか、接着力がまったくなくなってしまうとは予想もしていませんでした 》

って、そりあ予想してたらそんなもん作らねーだろうよなぁ(笑)。

 問題は、だ。まず一つ目に、巨額の開発費を投じてきただけに、失敗しました、じゃあやり直そうという訳にはいかないこと。二つ目。開発失敗が世間に洩れたら、間違いなく株価が急落するであろうこと。そして三つ目。とあるアメリカ資本の接着剤メーカーが、スナマチに対して敵対的TOBを狙っているという確度の高い噂があり、それが事実だとするならば、株価の急落はスナマチにとって命取りになる、即ち、乗っ取られる。

 故に――。本庄や啓太たち営業部隊に、過酷な、かつて誰も経験したことが無いような大命が下る。この、接着力が無い接着剤を、どうにかして売れ、と(笑)。

 といった様相で幕を開ける今野版お仕事小説は、前述の会議からして、その可笑しさときたらキリも無く引用してしまいたくなるレベル。シアノアクリレートが云々、メチル基とエチル基が云々と化学的な説明を重ねる開発担当に、しびれを切らした一人が《 そういうことじゃなくって、例えば何に使えるのかというような話を聞きたいわけで…… 》と問えば、問われた方は《 現時点では、何も用途がありません。何せ、接着力のない接着剤ですから 》とケロリと答えたりする。

 まるで漫才か落語にでもなりそうなこんなやり取りが続くのだけど、話しあってる連中は開発部を初め、宣伝部も販売部も、勿論啓太たち営業部も、誰もが真剣そのものだから、岡目八目のこちらとしてはそれが余計に可笑しかったりして、四六時中クスクス笑いが止まらない。思うに『膠着』というタイトルは、糊がくっつくという意味の他に、毎日のように会議を続けても埒が明かない〝 膠着状態 〟を重ねた絶妙なタイトルではあるまいか。



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 その膠着状態を啓太たちがどう突き破るのか。それは勿論、読んでのお楽しみだけれど、《 野毛さんの説明を聞いていて、何かひっかかるなって思ったんですが…… 》という啓太に対して、本庄が《 一つだけ教えてやる 》と先輩としてのアドバイス。曰く《 そういうのが大化けすることがある。ひっかかりやひらめきをばかにするな 》とは、業種に関わらず全てのビジネスパーソンへの助言にもなりそうで、つまりこの作品はただ面白おかしいだけの小説ではなく、しっかりと啓太の成長譚にもなっている。

 警察小説しか読んだことない今野敏ファンは、騙されたと思って読んでみて欲しい。読後は「俺もちょっと頑張ろうかな」なんて気持ちにきっとなる。

 営業の話をもう一つ。安壇美緒(あだん みお)『天龍院亜希子の日記』は、堂場瞬一や朝井リョウを輩出した、小説すばる新人賞

 主人公の田町讓は27歳。人材派遣会社の営業で、つまり〝 登録して派遣される方 〟ではなく、派遣先を探して派遣社員を送り込む側で、職場はブラック。欲深い経営者が自分だけ得をしようとして起るブラックと言うよりも、金も人も余裕が無いが故に労働環境が過酷にならざるを得ない、といった感じのブラックさ。派遣社員がバックレて派遣先に謝罪に行ったり、代役を探したり、見つからない時は自分が代わりに現場作業に出向いたり、しょっちゅうしょっちゅう終電で、当然土日は寝てばかり。そんな場所で讓も同僚たちも、日々疲弊している。だから職場の雰囲気も年がら年中ピリピリしている。更には讓の場合、遠距離恋愛の恋人とも、最近何となくギクシャクしている。



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 という第一幕目は、どうにもこうにもどんよりした雰囲気なんだが、これが不思議と暗くない。勿論、元気いっぱいハッピーラッキーと言うには程遠いけど、かと言って読む程に気持ちが沈み込むような陰鬱さは無い。それは多分、何だかんだ言っても讓が、仕事にやり甲斐を見出そうとしているからで、その〝 まだ参ってない 〟姿に、僕は救われるのだ。

《 革靴は走るとすぐに傷むというけれど、仕事中にとっさに走りだすこの感じは嫌いじゃない。なんらかのアクシデントで突発的に、何かを急くのはわりと好きだ。俺は仕事が嫌いじゃない 》

 そうは言っても、いいことばかりでは決してない。仕事なんだから当たり前だ。嫌な事も日々てんこ盛りだ。割りの合わないキツい職場に派遣社員を押し込む時など、罪悪感が胸の中で頭をもたげたりもする。それでも讓は、世の中で役に立つ駒でありたいと願う。そのちっぽけな悪あがきが清々しい。

《 この仕事が良いものなのかどうなのか、そういうことはわからない。俺がちゃんと働けてるのかも実のところわからない。だけど、ひとまず自分の目の前にある仕事でもって、ちょっとでも人の役に立てたらいいなと、俺だって人並みに思っている。誰かに喜んでもらえたらいいなと考える日が、俺にだってたまにはあるんだ 》

 この、大袈裟過ぎない前向きさに救われる。悟ったかのような言葉で言い訳を粉飾してカッコつけながら何もしようとしない大人より、一緒にいて気持ちがいいのは、多分、青臭くても愚直でも、讓のように希望を捨てずに行動を起こす人の方だろう。

 作中、讓が思わずこぼした本音によって、会話の相手も讓自身も、自分たちなりの幸福を実感するシーンがある。

《 なんだよ、俺は意外にこんな簡単に幸せになれるんだ 》

 傲慢に言い切ってしまうと、多分このセリフこそが本書のテーマだ。映画やドラマの如く、9回ツーアウトからのサヨナラホームランなんて、現実にはそうそう巡り会えるもんじゃない。もんじゃないけど、だからと言って人生投げ出す訳にもいかないじゃんか。ならば大逆転など狙わずに、ヒットを重ねてジワジワと這い上がる。日々の暮らしの中で、或いは毎日の仕事の中で、ふと手にした小さな安息を、取るに足りないと馬鹿にしないで大事にする。そんな風に幸せを拾っていけたら、きっと、なかなか悪くない人生を送れるんじゃないか。『天龍院亜希子の日記』は、そんな穏やかな気持ちにさせてくれる作品だった。



永野裕介のスクリーンからこんにちは。
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 多幸感溢れる作品! 映画好きなら是非観てほしい! あの頃の好きな気持ちを思い起こさせてくれる作品です。

 ビックリしたのが、主人公の生い立ちが超ヘビー。25歳ジェームスは、外気から遮断された地下シェルターで両親と3人で暮らしている。ここで先ず「んっ!?」と引っかかる。そして、子どもの頃から毎週届く『ブリグズビー・ベア』という謎の教育ビデオだけを観て育つ。えっ! 25年間も? 外に出ず、教育ビデオだけ!? そして、ある日警察が来てジェームスを連れ去りこう言う……「あなたが一緒に住んでいた両親は、25年前にあなたを誘拐した犯人です」……!? なんちゅう展開! 人生25年目にして初の外の世界。見覚えのない本当の家族。えっ! ジェームスどうなっちゃうの!? ……ネタバレみたいになってしまったが、ここまでザッと冒頭15分程だろうか……だが、勿論ここからが面白い。

『八日目の蝉』を始め、昨今……〝 産みの親より育ての親 〟という作品が多く見られる。前回、ここで紹介した『万引き家族』もこのモチーフでした。これをストーリーに落とし込むとなると、やはり重い雰囲気になってしまう。しかし、この作品は少し違う。ジェームスは『ブリグズビー・ベア』という謎の教育ビデオだけを観て育った超ピュアボーイ。ここからこの主人公が周りを巻き込んで、遥か斜め上を行く展開で物語は進んで行きます。

 私はこの作品、ファミリー喜劇のジャンルだと思いました。ブラックな部分もありますが、とても優しい世界観で笑える作品に仕上がってるな~と。あと、マーク・ハミルをスター・ウォーズ以外の作品で観られたのがとても新鮮で良かったです!



今月の紹介本
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『格差ゲームの時代』佐藤俊樹(品切れ重版未定)

『膠着』今野敏

『昭和16年夏の敗戦』猪瀬直樹

『シリウスの道』藤原伊織

『天龍院亜希子の日記』安壇美緒

『日本のいちばん長い日』半藤一利

『また、桜の国で』須賀しのぶ



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編集後記
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連載四コマ「本屋日和」
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8月のイベントカレンダー
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# by dokusho-biyori | 2018-08-03 10:17 | バックナンバー | Comments(0)