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出し抜け企画・原田マハ『独立記念日』座談会 前編

御用とお急ぎでない方は、さぁお立ち会い!

原田マハさんと言えば、『楽園のカンヴァス』を筆頭に、
『カフーを待ちわびて』とか『キネマの神様』とか『永遠をさがしに』とか、
今年2016も『暗幕のゲルニカ』とか『リーチ先生』とか、
良作傑作を連発していて代表作を一つに絞るのが難しいくらいな訳ですが。

ではそのマさんの『独立記念日』という短編集は、皆さん、ご存知ですか?
年齢も職業も様々な二十数人の女性たちの新しいチャレンジを描いた連作で、
これが、読めば誰もが勇気を貰える素敵な作品!

その『独立記念日』が、この度、装いも新たに大重版されまして、
これを機に、発売元のPHP研究所の二人プラス不肖・沢田が
作品の魅力を存分に語り合いました。

読書日和の出し抜け企画、『独立記念日』座談会、はじまりはじまり。

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沢田
さてお疲れ様です。本日お集まり頂いたのは、三人で原田マハさんの連作短編集『独立記念日』(PHP文芸文庫)の魅力を語り合おうと。

井上
自社本の中でも、特に好きな作品の一つです。

沢田
私もこないだ初めて読んで、なんだこの傑作は! と。書店員として、こういう本はもっと世に知らしめねばならん、と。

兼田
そうまで言って頂けると、編集者冥利に尽きます。

沢田
まぁそんな訳で、まずは軽く自己紹介から。

井上
PHP研究所第一普及本部の井上明日香と申します。簡単に言えば営業職で、丸善津田沼店さんも担当させて頂いております。本日は宜しくお願い致します。

兼田
PHP研究所文藝出版部の兼田将成と申します。この度の『独立記念日』の編集を担当致しました。担当した作品の魅力を編集者自らが語る機会などそうそう無いので、本日は嬉しい反面、おこがましいような気もします。

沢田
そして私、丸善津田沼店の沢田史郎が、進行役も務めさせて頂きます。宜しくお願い致します。
早速ですが、装丁が変わりましたね。

兼田
はい。ゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」という作品です。原田マハさん曰く「大好きなゴッホの作品の中で、もっとも明るく美しい一点を、『独立記念日』の表紙に選びました」とのことです。

沢田
透明感のある青が売り場で映えそうだ。

兼田
「花咲くアーモンドの木の枝」は、ゴッホが、自分の弟に子供が誕生したことがきっかけで描かれた絵画です。「新しい命の誕生」「再生」といった意味が込められています。

井上
様々な立場の女性たちが再スタートを切る『独立記念日』に、まさにぴったりですね!

沢田
で、まずは未読の方の為に、この作品の大雑把な説明が要ると思うんですが。

井上
作中、とある編集者がまさに『独立記念日』という書籍を担当するくだりがありますが、そこでは《 会社とか家族とか恋愛とか、現代社会のさまざまな呪縛から逃れて自由になる人々が主人公の短編集 》と言ってますね。

兼田
文庫の表4(裏表紙)には、こんな紹介を入れました。
《 恋愛や結婚、進路やキャリア、挫折や別れ、病気や大切な人の喪失……。さまざまな年代の女性たちが、それぞれに迷いや悩みを抱えながらも、誰かと出会うことで、何かを見つけることで、今までは「すべて」だと思っていた世界から、自分の殻を破り、人生の再スタートを切る――。寄り道したり、つまずいたりしながらも、独立していく女性たちの姿を鮮やかに描いた、24の心温まる短篇集 》
 
沢田
では、その24の短編の中で、特に印象に残ったのは?

井上
16話目の「おでき」です。

沢田
喫茶店でバイトする大学生の話だ。

井上
地元から大学進学のために上京していたり、私と共通した点が多くて、自分のことを思い出しながら読みました。

沢田
あ、地元どこなの?

井上
私、広島県出身なんです。東京に行きたい! と意気込んで大学進学の際に一人で上京してきたのですが、何か辛いことや悲しいことがあると故郷にいる家族のもとに帰りたくなっていました。

沢田
帰るところがあるって、いいよね。「おでき」は、一人で東京に出ていった次女を遠くから見守る母親の姿が、描写は殆ど無いのに読者に想像させるよね。あれが凄いなぁと思った。なんか、さだまさしの『案山子』を彷彿させられた。
♪ 元気でいるか 街には慣れたか 友だちできたか 寂しかないか お金はあるか 今度いつ帰る~
って、歌わせんなよ(笑)。兼田さんの好きな短編は?

兼田
やはり「幸せの青くもない鳥」でしょうか。この短編は、半分以上が、私の実体験がベースになっているお話なので、思い入れが強いですね。

沢田
え、マジで!? どういうこと?

兼田
北関東のとある町の社会人バスケットボールチームの監督さんをスポーツ・ノンフィクション作家の先生と訪問取材することになったんです。それで、その日の午後、駅に着いて、監督のご自宅にうかがう住宅街の中で、その作家の先生が、「兼田さん、肩にインコがとまってますよ!」って。

沢田
何だそりゃ(笑)。

兼田
「えっ!?」って自分の肩を見たら黄色いインコが! もうびっくりでしたよ。驚きのあまり「ワッ」っと追い払ってしまったんですが、何度追い払っても私の肩に戻ってくるんですよ。そうこうしているうちに監督さんのお宅に着いてしまい、肩に乗せたまま「はじめまして、ご連絡差し上げたPHP研究所の……」とご挨拶しました。

井上
マンガみたいですね(笑)。

兼田
もう、監督さんは、本当に「コイツ何?」って顔をしていましたね。

沢田
そりゃそうだろうね(笑)。

兼田
事情を説明したのち、一旦、監督宅で預かろうかという話も出たんですが、「止まった場所で放せば、インコも飼われていた家にとんで帰るのでは?」ということになり、私が放しに行ったんです。で、せっかくだから記念に、左肩のインコを携帯のカメラで写真に撮ろうって(笑)。

井上
何の記念ですか(笑)。

兼田
そしたら携帯の液晶画面の中に白い軍手がパッと伸びてきて――。「うちのインコです。どうしてあなたが?」と男性に声をかけられました。なんとその方が、インコの飼い主だったんです! なんでも会社を休んで朝から探していたそうです。

沢田
マンガみたいだ(笑)。

兼田
聞けば、同居していたお祖母さんが、朝布団を干そうとしたら、籠に布団が当たって、インコが逃げたらしいんですね。もう、お孫さんが泣いて泣いて仕方がなかったそうで、お父さんであるその男性は朝から探しまわっていたとのことでした。

沢田
お孫さん、喜んだろうねぇ(笑)。

兼田
インコを飼われていたご家族とは今でも年賀状のやり取りがありますし、あの黄色いインコが私の肩に止まった翌日に、弊社刊『利休にたずねよ』(山本兼一 著)が直木賞を受賞したという吉報が舞い込んだので、「あれは幸せの黄色いハンカチならぬ、幸せの黄色いインコだったんだね」と今でも編集長と語り合っています。

井上
本当に、「幸せの青くもない鳥」ですね

兼田
「雪の気配」も好きな短編のひとつです。

沢田
「雪の気配」は、バーテンとしてのキャリアをスタートさせる女性が、人生をカクテルになぞらえる場面があるじゃないですか。

兼田
《 人生、甘くない。苦いし辛いし酸っぱいし、けっこうとんでもない。でも、そういう味をちょっとずつブレンドするからこそ、美味しくなるのよね 》という部分ですね。

沢田
そうそう、それ。いいセリフですよね。

井上
沢田さんは、どの短編がお好きなんですか?

沢田
この短編集、つまらない話が一つも無いから難しいんだけど、頭から読み進めて最初に「あれ!? この本、傑作かも」と思ったのは「真冬の花束」だなぁ。

井上
イジメが絡む、結構、重苦しいお話ですよね。

兼田
主人公は高校の教師で、担任するクラスで一人の女子生徒がどうもイジメの標的になってる気配がある……という、かなり難しい立場ですね。しかも、自分自身も子どもの頃にイジメに遭った体験があるという……。

沢田
イジメられていた中学生時代の回想シーンで、14個のつぼみを持つ菊の花が、或る日いっぺんに開く場面。通勤の車内で読んでて、ズシンと響いた。《 ただそれだけのことだったのに、私は涙した。小さなつぼみが開いただけなのに、私の世界はその瞬間に変った。そんな瞬間が誰にだって訪れる。それは真紀にも等しく訪れるのだ、と教えたかった 》って、ここだけ抜き出しても未読の人には何のことだか分からないだろうけど、読みながら主人公と一緒になって、真紀に向かって声援を送っていた。

兼田
一応、未読の方向けに説明すると、真紀というのが、主人公が担任するクラスでイジメられているっぽい生徒ですね。

沢田
その真紀ちゃんが、主人公にメールするじゃない、武者小路実篤の詩の解釈をめぐって。その何度目かで主人公が《 『正解』思わずつぶやいた。ついでに小さくガッツポーズまでしてしまった 》っていうここの場面で、おいらも本当に小さくガッツポーズしたくなったよ。「ヨッシャ!」って。真紀ちゃん、頑張れ! って。


⇒後編に続く

















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by dokusho-biyori | 2016-11-09 09:39 | 過去のフェア | Comments(0)