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遠くを見る

しつこいようだけど中山智幸さんの『暗号のポラリス』


僕の中では、一生手元に置いておきたい本の一つであるにもかかわらず、世間での扱いがどうにも地味なので、声を大にして何度でも言っておきたい。この作品は、不器用でも一生懸命生きている人たちへの励ましに充ちている。挫けようとする自分自身と日々闘っている、大勢の人々への声援が溢れている。

主人公のユノ少年は難読症という学習障害の一種を抱えていて、文字が読めない。
彼は、人が当り前に出来ることでも容易にはこなせない自分を、馬鹿だと信じている。
ハリウッドスターにも難読症の人はいるといった励ましも、逆に
「ハリウッドスターにでもならないことにはあなたは無価値だ」と受け取ってしまう。

そんなユノ少年が、その夏、たった一人で知らない土地に飛び出してゆき、
幾つかの出会いと困難を重ねた末に、亡き母の言葉を思い出す。
「近くばかりを気にするから怖くなるの。遠くを見なさい」
そして気がつく。

自分は今まで、難読症という「近く」ばかりを見てきたのではないか、と。
難読症など、これから先の人生で襲ってくるであろう厄介事の
最初の一つに過ぎないのだ、と。
一歩下がってこれから歩んで行く道の先を見渡せば
凸凹も石ころも水たまりも無数に在って、
難読症はそれらのどれか一つに過ぎないのだ、と。
ならば、

難読症など、自分を否定する理由にはならないのだ、と。

ここで、物語の世界から現実の生活に視線を移す。
今、抱えている辛いこと。明日、予想される憂鬱なこと。
そこに近づき過ぎるから怖くなるし、逃げたくなる。
今日明日の厄介事だけを見ているから実際以上に大きく感じる。
そんな時はユノに倣って遠くを見てみる。
するとほら。

今日明日の厄介事など、これから乗り越えなければならない障害の
千分の一、万分の一でしかないことに気がつきません?
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by dokusho-biyori | 2015-12-11 15:47 | サワダのひとりごと