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14年06月

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『夜歩く』横溝正史 角川文庫 9784041304075 ¥514 + 税
 古神家の令嬢八千代に舞い込んだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真は陰惨な殺人事件の発端であった。卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ力作。(KADOKAWA HPより)

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この「読書日和」を毎号熟読してくださっている、熱烈ファンの方には(いるとすればですけど)またか! とお叱りをちょうだいしそうですが、またなのであります。
金田一!! つよし君でもカメナシ君でもないよ。じっちゃんの名にかけて! のじっちゃんの方だよ!!!!の金田一耕助なのです。
いや、だってね。この『夜歩く』があんまりにもすごかったもんだから、ついね、書きたくなっちゃったんだもの。
もちろんわたしがご紹介するまでもなく、超有名な横溝正史金田一シリーズの一作なのですが、この作品は『八つ墓村』『犬神家の一族』と比べると、ややマイナーな作品なのではないでしょうか、、、。
たしかに! より変態度が増しております。これはどうしたって最後に注意書きが必要なやつでしょう。作中不適切と思われる描写がありますがうんぬんかんぬん・・・ていう。
一族の閉鎖された空間で起こる不穏な殺人事件。とてもよく似たふたりの佝僂(※せむしの事)。近親相姦をにおわせる兄弟。首のない死体。家の納屋に隠された得体の知れない女。夢遊の病を持つ夜歩く人たち、、、。
言葉を羅列するだけで、いかに独特で変態なのがおわかりいただけるかと思われます。

そして今回は語り手がひとりの探偵小説家なのです。
実は金田一耕助は脇役? っていうくらいちょこっとしか登場しません。いつもの金田一シリーズとは少し異色。
その探偵小説家が友人の仙石氏に招かれ古神家一族の屋敷に滞在するところから事件は始まります。まぁとにかくおかしなことばかり。
というのもこの家、幾人かが “ 夜歩く ” 夢遊の気が。だから当人も気付かないうちに何かやっているかもしれないという不安がつきまとい、誰をも疑わしく思ってしまう。
そんな中起こった第一の殺人は、やはり夜起こり、恐ろしいことに、、、死体には首がなかったのです。
首がない死体は当然誰だかわからない。というか、特徴のありすぎる死体だったため予測はついたけれど、あろうことかこの家にはその特徴を持った人物が二人いたという、、、。
なんとまぁ凝りに凝った・・・練りに練った設定であろうか!
ここから事件はどんどん複雑になっていき、ページをめくるごとに目が離せなくなっていきます。
最後まで読んで、いやぁ〜圧巻ですよ。トリックそのものはもしかしたら見破れるかもしれないけど、(わたしは無理でした!)ディテールが濃すぎて夜の深い闇がすぐ鼻先までおりてくるよう。
本当の意味で鳥肌が立つってこういうことか、、、。

ミステリ好きなら読まない手はないし、しんとした黒い夜のあの空気がお好きな方なら尚おすすめいたします。
秋の夜長にミステリをってよく言うけど、夏の夜だってミステリ向きでしょう。じっとしてても汗がわいてくるような熱帯夜に、ときおりすっと背筋が寒くなるような文章が楽しめるのだから。 (酒井七海)


『バニヤンの木陰で』ヴァデイ・ラトナー/市川恵里 訳 河出書房新社 9784309206479 ¥2,600 + 税
 破壊と虐殺の嵐吹き荒れるクメール・ルージュ下のカンボジアの惨状を7歳の少女の視点で描く自伝的小説。痛ましい喪失の中で、言葉の力を信じて生き延びた主人公の感動的な運命。(河出書房新社HPより)

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ちょうど10年前の夏、わたしはプノンペンの路上にいた。
バックパッカーってなんかかっこいいなぁ、、、という単純な動機から、行くならアジア!とお金のない自分の条件とも完璧に合致する東南アジアを気の向くままに旅していた。
カンボジアはわたしが行った国の中でも特別貧しく、危険だと言われていて、たくさんの人たちの手足がなかった。
地雷の国だった。
それでも出会う人出会う人の笑顔がはじけるようで、その目は明らかにわたしたちとは違う光を宿していた。とても綺麗だった。
プノンペンでは特にすることがなかったので、ホステルのおじさんの勧めでキリングフィールドに行くことにした。
わたしはそのとき、ポルポトのこともこの地で行われた大虐殺のことも何も知らなかった。ガイドブックを読んで初めて何となくあったことを知り、それでもなお、たいして何も考えずにそこへ行った。
入ったところはがらんとした学校のような場所で、そこに何万人何十万人という人たちが集められて、ひどい拷問の末、殺されたのだそうだ。
いまだのこる天井まで飛び散る血の跡のような痕跡がどれだけ凄まじいものだったかを物語っていた。
わたしはよくわからなくなった。なんだこれは、、、本当だとはとても信じられないことだった。
だって、それまでに出会ったカンボジアの人たちは、みんなすごく楽しそうによく笑ったから。その笑顔は他の国ではちょっと見られないくらい、いい顔だったから。
親に守られ、社会に守られ、のほほんと生きてきた日本人のわたしには、そんなことが起こりうるまったく別の社会が世の中にあるなんてこと到底信じられなかった。
でも、あったのだ。

10年たってこの本に出会えた。
10年たってやっとわかった。
あのとき何が起こっていたのかということが、
あの素敵な笑顔で笑う人たちに、どんな刃が振り下ろされたのかということが。
読み進めるのがつらくて、つらくて、おなかが震えるほど、泣きながらやっとのことでページをめくり、また泣いた。
どれだけ理不尽な目にあっても、どれだけ苦しくて絶望的であっても、主人公ラーミは飲み込まれない。どこかで生きることの美しさを信じているのがわかるのだ。圧倒された。
全編通して文章が本当に美しく、ともすれば凄惨な描写だけが際立ってしまいがちな現実を、ひとつの物語に変えている。
物語に変わることで、より一層真実に触れている。大切なことが書かれている。そういうふうに感じた。

あぁ、そうか、わたしが出会った人たちもきっとみんなラーミなのだ。人生の美しさを全力で信じている。そういう笑顔だったのだ。
今やっとそれがわかった。
もう一度あの人たちに会いに行きたくなった。あの笑顔が今も守られているかどうか確かめるために。 (酒井七海)


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 帚木蓬生さんの『ヒトラーの防具』(新潮文庫)を読んだ時にも、浅田次郎さんの『終わらざる夏』(集英社文庫)を読んだ時にも、山崎豊子さんの『大地の子』(文春文庫)を読んだ時にも、映画『連合艦隊』(松林宗恵 監督)を見た時にも、『プラトーン』(オリバー・ストーン 監督)を見た時にも、TVドラマ『白虎隊』(日本テレビ年末時代劇スペシャル)を見た時にも、アニメ『機動戦士ガンダム』(富野喜幸 監督)を見た時にも感じたことを、『バニヤンの木陰で』でもまた感じた。

 戦争とか内乱とかクーデターとか革命とか、首謀者たちによる大義名分できらびやかに粉飾されてはいるけれど、結局は、そんじょそこらの一般庶民が大切な人を次から次へと失うだけで、良いことなんかひとっつも無いじゃん!

 にも関わらず、なんで権力者たちはそういうことをしたがるんだろうね、まったく。一説によると、有史以来、地球上の一切の地域で戦争が無かったという日は僅か十日に満たないんだそうで、いやはや人間ってのはとことんバカだな。
 と、自分もそのバカな人間の一人だということを忘れて、ついつい憤ってしまうぐらい、残酷で無慈悲な物語でありました。

 著者は、実際にカンボジア内戦を体験し生きのびた元王族の女性。自身の壮絶な体験を著わすのに、ノンフィクションとしてではなく敢えて「物語」という形をとったのは、当時はまだ幼く記憶に曖昧な部分が多いためだという。しかしながら行間から溢れて来るのは間違いなく「生存者」の生の声であり、同じような出来事を当時、何万、何十万という人々が体験したであろうことは、容易に想像がつく。
 組織への忠誠の為には家族の絆は邪魔であるとして、親子兄弟いとこはとこ有無を言わせず引き離し、極端な農本主義によって科学も技術も否定して非効率的な工法、間違った医療を蔓延させ、一般国民をことごとく奴隷化して立てなくなるまで無償で使役し、更には身体のみならず精神の自由すらも奪って宗教どころか学問の自由すら認めず、少しでも逆らった(と疑われた)者は容赦なく処刑する。当然、処刑された人間の埋葬など、許される筈もなく野ざらし陽ざらし雨ざらし。何しろその非人間性と言ったら、控えめに言ってもナチスとどっこいどっこいでありますな。
 とは言え、ポル・ポトだのクメール・ルージュだの、そういうのをひっくるめたカンボジア内戦の歴史だのを学びたいのであれば、本書より他に適した書物が幾らでも在る。ちょっと調べただけでも『キリング・フィールドへの旅』(波田野直樹、連合出版)、『カンボジア大虐殺は裁けるか』(スティーブ・ヘダー ブライアン・D.ティットモア/四本健二 訳、現代人文社)、『ポル・ポト死の監獄S21』(デーヴィド・P.チャンドラー/山田寛 訳、白揚社)などなど、実に読み応えがありそうだ。

 が、それらはあくまでも「記録」であり、「調査」であり、「考察」であり、「ルポ」である。対してこの『バニヤンの木陰で』に描かれるのは、十歳にも満たない少女がその目で見、その耳で聞き、その指で触れた混乱と殺戮と飢餓と別離。クメール・ルージュが間接、直接に殺害した人の数は一〇〇万とも二〇〇万とも言われていて、そういう「数字」が物語るむごたらしさってのも勿論あるんだけど、被害者の目線による主観的な描写には、「数字」では表せないとても大事な何かが宿っているような気がする。
 大虐殺により、家族と青春と声と感情を理不尽に奪われた少女の慟哭を、姿勢を正してお薦めしたい。(沢田史郎)


『最後のスコアブック』平山譲 PHP文芸文庫 9784569761862 ¥750 + 税
 時に愛し、時に憎んだ「野球」に救われ再起していく男たちの姿を描いた傑作。NYヤンキース・田中将大の若き秘話も収録。(PHP研究所HPより)

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 いやぁ、いいもん読んだ。全野球ファン必読。もとい、どんなスポーツであれ選手としてプレーするのが好きな人、観戦するのが好きな人、応援するのが好きな人、コーチや監督やってる人、みんな必読。泣けるとか泣けないとかそういう偏平な価値観でくくるの嫌いなんだけど、言わずにおられん。泣ける。これ読んで感動しないなんて、人としてどうかしてるんじゃないか? と思うくらいに泣ける。これから読もうとする皆さんには、涙が溢れて始末に困るから人前で読むのはやめた方がいいと、老婆心ながら忠告しておく。

 本書に登場するのは、例えば……
 ドラフト外でジャイアンツに入団したものの、一軍登録の機会も無いままに体を壊して引退。スコアラーに転身した途端に新しい才能が開花して遂には、原辰徳率いる日本代表に於いて、WBC優勝の陰の功労者となった元一塁手。
 例えば、中学生時代に自身の才能に早々に見切りをつけ、選手ではなくアンパイアになることを志し、遂にはメジャーリーグ初の東洋人アンパイアを目指して、現在も挑戦中の元野球少年。
 例えば、佐賀商時代は甲子園でノーヒットノーラン、駒澤大学を経て就職した日本生命では、社会人野球日本一とMVP。五輪出場後にライオンズに入り、最優秀防御率を獲得してオールスターにも選出されたという華々しい実績を持ちながら、引退後は女子野球のコーチにやり甲斐を見出す元ピッチャー。
 などなど日本代表にまで選出された超一流選手から、余程の野球通でも知らないようなマイナー選手まで、本書では幾人かの野球人の生き方が描かれる。その全てに共通するのは、皆々、一度はつまづいて失望したり悲観したり自棄になったりするんだけども、計らずも転んで手をついたところに、新しい可能性が落ちていた、というノンフィクション。
 禍転じて福と為す、という言葉があるけれど、本書を読んでいると一時の不幸や傷心にくよくよしているのは勿体ないという気になって来る。ちょっと話が卑近になるけれど、今ではオフィスに不可欠な糊つきの付箋。あれなんかも、糊のメーカーが「すぐに着くけど、すぐに剥がれる」という失敗作を、他の用途に転用したのが始まりだそうだし、人生、押してダメなら引いてみなってことなんだろう、きっと。

 更に。ニュースや新聞では決して見聞き出来ない、選手たちの「生」の格好良さに触れられることも、本書の魅力の大きな一つと言っておきたい。例えば、WBCの際に絶不調だったイチロー選手が、それでもリーダーたり得た名場面。例えば、公式戦で初めてジャッジをする新米審判員に、日ハムの山下選手がかけた静かな声援。例えば、甲子園常連の強豪校の監督が、初めてグラウンドで流した涙。etc、etc、etc、いやもう、思い出しただけで泣ける。因みに私、読み終わって間髪入れずに再読しました。それぐらい好きな本。

 そして最後にもう一つ。個人的には、あの山際淳司さんを引き継ぐ本格派のスポーツライターが、とうとう現れてくれた! と興奮中なんだけど、本書の著者は、以前当欄で紹介した『灰とダイヤモンド』(PHP研究所)――三宅島の噴火にも負けずに頑張った三宅高校ナインのノンフィクション――の平山讓さん。その文章ではどの選手もどの監督も実に活き活きと躍動していて、つまらなかったら土下座してもいい! というぐらいに自信をもってお薦めしたい。勝利の雄たけびや敗北の嗚咽が聞こえて来るような文章を、抱き合って喜びを爆発させる姿や膝を落として悔しがる様子が、まるで映像を見ているかの如くまぶたの裏に浮かんでくる描写を、全てのスポーツファンへ。(沢田史郎)


きょうの音楽
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(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

以下、出版情報は『読書日和 06月号』製作時のもです。タイトル、価格、発売日など変更になっているかも知れませんので、ご注意ください。


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編集後記
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連載四コマ『本屋日和』
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by dokusho-biyori | 2014-06-10 20:19 | バックナンバー | Comments(0)