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14年05月

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『諦める力』為末大
プレジデント社 9784833420488 ¥1,500+税
 耐える人生か。選ぶ人生か。人は他者にある程度評価されなければ、自分の価値を感じられない生き物である。世の中に認められたくても現時点では認められていない人に、「きみは今だってオンリーワンだよ」と言ったところで何の慰めにもならないだろう。(プレジデント社HPより)
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 本書の冒頭に、「諦める」という言葉の語源が「明らめる」である、との記述がある。仏教では物事の道理を「明らかにする」という、かなりポジティブな言葉であるそうな。
 また、巻末の「おわりに」の項では、【前向きに、諦める】という不思議な言葉が登場する。【いくら努力しても鹿が犬になることはできない】、【自分は、どこまでいっても自分にしかなれないのである】と。
 そして、タイトルが『諦める力』である。一体、ポジティブなんだかネガティブなんだか判断に迷う本ですが(笑)、「逃げ」や「挫折」といった負のイメージが付きまとう「諦める」という行為を、よりよい選択をする為の手段として捉え直す、といった文脈のエッセイです。

 例えば、高度成長期と比べて生き方も働き方も多様になった=選択肢が増えた現代に於いて、【仕事も諦めない、家庭も諦めない、自分らしさも諦めない】というスタンスが、却って幸せを遠ざけているのではないか、と為末さんは言う。また、流行りのソーシャルネットワークの影響で、かつてなら程々の幸せを実感できていた筈の人たちが、「あの人に比べたらそうでもないかも」などと、無駄にがっかりしたりしてはいないかとも述べた上で、こんな提案をしている。

【何か一つだけ諦めないことをしっかりと決めて、残りのことはどっちでもいいやと割り切ったほうが、幸福感が実感できるような気がする】

どうでしょう? 陸上短距離の100メートルを「諦め」て、400メートルハードルで日本記録を作った為末さんに言われると、実に説得力がありはしませんか?

 或いは、近年殆ど信仰のようになっている「オンリーワン」志向についても、釘をさす。自分らしくと言われても、では何が自分らしいのかはっきりと解っている人がどれぐらいいるのか? 自他ともに「オンリーワン」であると言い切れる人が、世の中に一体どれだけいるのか? と。そして、こう言う。

【僕は人間なんてみんな一緒で個性なんてないのだから、何者かになる必要なんてないと言われたほうがほっとする】

 もしかすると本書は、読む人によっては――いわゆる自己実現を叶えて世間から勝ち組などともてはやされているような成功者が読むと――負け犬の遠吠えにしか聞こえないのかも知れない。けれど、人はいつかは負ける。何を以って「負け」とするかは措くとしても、永遠に勝ち続ける人生というのは多分、無い。そんな時に、「頑張っても無理なことはある」ということを体験的に知っていて前向きに「諦める」ことが出来る人とそうでない人は、這い上がる力に大きな差がでるのではなかろうか。実際、引退してからの人生に於いては、勝った記憶よりも【負けを受け入れ、そこから立ち直ったこと、勝負に負けたことくらいで傷つかなくなったこと】の方が、力になっていると為末さんは言う。そして更にこう続ける。

【人生は長く勝負は無数にある。負けない工夫より、負けにふてぶてしくなるほうが最後は強い】

 人生にも世の中にも、努力だけではどうにもならないことは無数にある。何か一つ本当に大切なものをきちんと大切にする為に、その他のどうにもならないことは「諦める」。それは逃げでも挫折でもなく幸せへの第一歩ではないかと考えたら、生きるのがちょっとラクになりはしませんか?(沢田史郎)

『ディア・ライフ』アリス・マンロー/小竹由美子 訳
新潮社 9784105901066 ¥2,300 + 税
 チェーホフ以来もっとも優れた短篇小説家が、透徹した眼差しとまばゆいほどの名人技で描きだす、平凡な人びとの途方もない人生、その深淵。引退を表明しているマンロー自身が〈フィナーレ〉と銘打ち、実人生を語る作品と位置づける「目」「夜」「声」「ディア・ライフ」の四篇を含む全十四篇。(新潮社HPより)
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先日、短編作家で初めてノーベル文学賞をとったアリス・マンローの最後の作品(ご本人がこれを最後に絶筆を宣言していらっしゃる)。
短編といえどずっしりと読み応えのある十四編です。
どれもとある人たちのとある人生を切り取ったものと言える。

『ディアライフ』というタイトルがまず好きですねぇ。
最終話からつけたこのタイトルが、作品のすべてを表しているような気がします。
愛しい人生、、、というふうでしょうか。晩年にふりかえって見ているようなニュアンスがあります。親愛なる人生へ、、、と訳すと手紙のようにも。
ただどの話もわくわくと楽しいものではないです。どちらかというと、後悔や取り戻せない時間への思慕にあふれています。
小さなすれ違いや、ふとした偶然の出来事が何かを決定的に変えてしまう瞬間。
そういう瞬間を見逃さず、自然に丁寧に綴っています。
でもその瞬間は一瞬だけ焔のような熱を持って、燃えるようなのです。ほんの一瞬だけ。

わたしが好きだったのは二話目「アムンゼン」
カナダの北のほうへ教師として配属された女が、そこの医師と関係を持ち婚約をするのだけれど、直前になって破棄されてしまうという話。
冒頭部分の北国の描写が果てしなく美しくて、キンという寒さの音が聴こえてくるくらい静かな世界が広がっていました。
そこで出会う一人の風変わりな少女。いつの間にか懐かれていることにとまどいながらも気になる存在に。
反対にその子を邪見に扱う医師に不信感を持ちつつも、結婚という甘い響きから逃れられなくなっていきます。
そうならざるを得なかった時代でもあったのでしょう。
その描写がまた巧みで、ものすごくやるせなかった。

それから表題作「ディアライフ」もいい。
自伝的要素もあるというこの作品はラストが素晴らしいです。
最後の行だからここには書かないけれど、この一文を読んで、ふか~くため息。
長く深い人生経験が書かせた言葉だなぁと感じる重みがそこに。
多くは書かずとも、一文だけですべてを表してしまうくらいの力があるんだよなぁ。
本当にしびれた。

マンローは年老いてから読むと、また見え方が変わりそうです。
その日までに他の本もそろえ、楽しみに待つようにしよう。
また楽しみが増えたぞ、、、、、(ってどんだけ増やす気だじぶん、、、)(酒井七海)

『さようなら、オレンジ』岩城けい
筑摩書房 9784480804488 ¥1,300 + 税
 オーストラリアの田舎町に流れてきたアフリカ難民サリマは、夫に逃げられ、精肉作業場で働きつつ二人の息子を育てている。母語の読み書きすらままならない彼女は、職業訓練学校で英語を学びはじめる。そこには、自分の夢をなかばあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」との出会いが待っていた。第29回太宰治賞受賞作。(筑摩書房HPより)
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この本が芥川賞の候補作になったとき、改めて巻かれた帯に
『こんな小説をずっと読みたかったのだ』という小野正嗣さんの言葉が入った。
そう! そうなのだ。
わたしも本当にそう思った。
こんな小説を読みたかった。読めてうれしかった。

ここにあるのは飾りのない、生身の人間。
生きるため、一人でも立ち向かう女たち。
しかも言葉の通じない世界で。

ふと考えた、、、母国語とそれ以外の言語とは、、、
いくら私たちが一生懸命、例えば英語を習い、獲得してたいがいのことが言えるようになったとしても、それはやはり外国語であって母国語ではない。
母国語とは単なる言語以上のものがあるように思う。
ときに武器になり、盾になり、わたしたちを支える壁になる。そして何よりバックグラウンドとなって歴史になってゆく。
外国で生きるというのは、そういうものを捨てるということだ。想像すると真っ暗な穴の中で綱渡りしているような毎日に思える。
いや、大げさみたいだけど最後の最後、窮地に立ったときに隠し持った武器があるかないかでは、心の保ち方がまったく違うと思うのだ。

この物語はサリマ、ハリネズミ、オリーブという外国で暮らす三人の女性が登場人物。
精肉工場で働くサリマがシャワーの中で涙をながす場面から始まる。涙はシャワーとまざって落ちてゆくけれど、頬をつたう温かさではっきりとシャワーの水と区別できる。その悲しみは彼女の中でくっきりと輪郭を持っている。
英語学校のクラスには、サリマがハリネズミとオリーブと名付ける日本人と思われる子とイタリア人の夫人が出てくる。
サリマとハリネズミがこれから人生を踏み出していくのに、四苦八苦しているのなら、オリーブは人生の終盤に差し掛かって、静かになっていく空白の時間をもてあましている人だ。
三人はつかず離れず、一定の関係を築く中で、お互いの悲しみや孤独の部分が共鳴し合い惹かれ合ってゆく。
だけど彼女たちはそれに負けてしまったりはしない。それぞれのやり方で助け合いながらたくましく受け入れて飲み込んでゆく姿が途方もなくかっこいい!
飾り気のない無骨とも感じられる文体も、強くシンプルな想いが伝わってきた。

物語にはちょっとしたしかけがある。最初は誰が誰なのかがよく分からないのだ。ところどころに誰かが書く手紙が出て来て、ん、、、?となる。
でも徐々にわかってきて最後はあぁ、そういうことだったのか! とぽんとなる。
しかけはいらなかったという人もいるだろうけど、私はとても面白く感じた。
こういう仕掛けを作ることで二重三重の見方ができるし、俯瞰もできる気がするので。

ラスト、銀色の車体にオレンジ色が映り込む様は、映画のワンシーンのように美しく、またそれに決別してゆく想いを乗せていくようで胸がふるえた。
間違いなく傑作! (酒井七海)

『だれも知らない小さな国』佐藤さとる
講談社文庫 9784062767989 ¥552 + 税
 びっくりするほど綺麗なつばきが咲き、美しい泉が湧き出る「ぼくの小山」。ここは、コロボックルと呼ばれる小人の伝説がある山だった。ある日小川を流れる靴の中で、小指ほどしかない小さな人たちがぼくに向かって手を振った。うわあ、この山を守らなきゃ! 日本初・本格的ファンタジーの傑作。(講談社HPより)
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 一番最初に読んだのは確か小学四年生の頃だったから、考えてみれば、この物語の主人公が初めてコロボックルを見かけたのとちょうど同じ年頃だったという訳だ。「コロボックルは本当にいるかも知れない。僕も探しに行きたい」みたいな内容の読書感想文を書いた記憶がある。おぼろげとは言え、三十数年も前に書いた感想文を覚えているというのは、当時、よほど感銘を受けたということなんだろう。勿論いくら子どもとは言え、作り話だと分かってはいた。分かってはいたけど、百パーセント嘘だとはどうしても思えず、読み終わった後しばらくは、通学路の脇の草むらや校庭の端の花壇の中や夜眠る前の部屋の隅を、いつも気にしながら生活していた。
 何しろコロボックルは用心深くてすばしっこいんだ。今まで誰も見つけられなかったとしても、それが「いない」という証拠にはならないぞ。それに大人は不思議なことは信じないから、運よくコロボックルの姿を見たとしても、自分の目よりも「いる訳がない」という常識の方を信じて目の錯覚で済ませてしまうに決まってる。シーラカンスだって、人に見つからずに何億年も生きのびてきたんだ。コロボックルだって、もしかしたら本当にどこかにいるかも知れないぞ。そのどこかが自分のすぐ近くでないとは言い切れないぞ。もし見つけたら絶対に発表なんかしないし、誰にも内緒にして仲良くする決心なんだから、怖がらずに出て来てくれないかなぁ。
 と、当時この作品から貰ったわくわくするような高揚感を――まだ子どもだったからこれほどロジカルに考えていた訳ではないだろうけど――今の自分の言葉で説明するとこんな感じだと思う。しかもその高揚感は、四十を越えた現在でも僅かに続いているような気がする。
 そして、それこそがこの作品の一番の魅力なんだと思うのだ。一言で言えば 〝 ありそうな感じ 〟。それはリアリティなんていうスマートな言葉ではなく、現実感みたいな小難しい単語でもなく、〝 どこかにありそう 〟 〝 どこかにいそう 〟 という、手触りとか手応えに近い感覚。コロボックルは「いない」のではなく、僕らが見つけられないだけ。そんなファンタジーを一つぐらい、心に持っていても悪くない。

 舞台は、『となりのトトロ』を連想させるような地方の農村。時代は戦前。小学生だった主人公の「ぼく」は近所の野山を探検していて、小高い丘や杉林に囲まれた小さな空き地にひょっこりと出くわす。土地の老人によると、昔から「こぼしさま」と呼ばれる小人の神様が住んでいて荒らすと罰が当たるというその空き地で、或る日、「ぼく」は本当に「こぼしさま」の姿を目にすることになる。ほんの一瞬、アッと思った次の瞬間にはもういなくなっていたけれど、あれは絶対に見間違いなんかではない。そう確信した「ぼく」は足しげく空き地に通うようになるが、やがて父の仕事の都合で引っ越すことになり、更には戦争も始まって、とても「こぼしさま」どころではなくなってしまう。
 そして、戦争が終わって生活も漸く落ち着きを取り戻した頃、青年になった「ぼく」が何年が振りで空き地を訪れてみると……。
 といった辺りまでが第一幕で物語はいよいよこれからなんだけど、以降の展開は敢えて書かない。コロボックルって、やっぱりホントにいるんじゃないか? そんな淡い期待が少しずつ確信に変わっていく主人公の心情に、いつの間にか共鳴して高鳴るワクワク感を、是非とも味わって欲しいと思う。

 今回久し振りに読み返してみて一つだけ子どもの頃と受け止め方が違っていた。コロボックルはいるかも知れないと思ったのは相変わらずだけど、それは、僕自身も含めて、誰にも見つけられないからこそいいんだろうな。大人になった今は、そんな風にこの物語を読み終えた。(沢田史郎)

新企画(?) きょうの音楽
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(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

以下、出版情報は『読書日和 05月号』製作時のもです。タイトル、価格、発売日など変更になっているかも知れませんので、ご注意ください。

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編集後記
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連載四コマ『本屋日和』
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by dokusho-biyori | 2014-04-28 18:04 | バックナンバー | Comments(0)