13年7月号

13年7月号
表紙は、謎のたなばた仮面。
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『白球アフロ』朝倉宏景 講談社 9784062182522 ¥1,260

須永クリストファー。ワケあってアメリカから都立等々力高校にやってきた、アフロでデカくて、ちょっぴりウザいハーフの黒人転校生だ。我らが弱小野球部に鳴り物入りで入部したけれど、アメリカ野球で育ったクリスにとって、犠牲バントだけは納得のいかないものらしい。困り果てた「俺」は、バントをすることを条件に、クリスの気になるクラスメイトとの仲を取り持つ約束をするが……。(講談社HPより)


 思い切って白状しよう。バスケ部だった高校生の頃、私の頭を占めていたのは、女の子にモテることとバスケが上手くなることの、たった二つだけだった。他の何事かが入り込む余地は、三年間ほぼ無かったと言って良い。
 まぁ女の子にモテたいと願うのは男だったら当然の心理で不思議は無い。我ながら解せないのは、バスケの方だ。なにゆえに、あんなにも他を犠牲にして一生懸命になれたのか?
 給料が出る訳でもなく、成績が上がる訳でもなく、イケメンになれる訳でもない。要するに実利面では何一つ得することなど無いにも関わらず、帰宅部の連中がバイトしたりデートしたりしてるのを横目に見ながら、年がら年中体育館でボールを追っかけ回していた訳で、そのモチベーションと言うか原動力になっていたのは一体何だったのか、今となっては実に不可解極まり無い。
 それでも、損得勘定でやってた訳ではないということだけは、言い切ってしまって良いと思う。

 そうなんだよね。若者ってのは、損得勘定抜きで闇雲に突っ走ることが出来る生き物なんだな。そしてその無意味な情熱を清々しく活写したのが『白球アフロ』だと、それを言いたかった訳である。

 舞台はとある都立高校の野球部で、夏の甲子園予選では二回か三回は勝ち抜きたい、という程度の弱小校。そこに野球の本場アメリカから、転校生がやってきたのが波乱の始まり。褐色の肌に一九〇cm近い長身でアフロヘア。メジャーリーガーの如き風貌に野球部員の期待は否応なく高まるが……。
 日本独特の「空気を読む」という行動が理解出来ず、日米の文化の違いを率直に口にして野球部を振り回すクリスの言動が、まずは可笑しい。曰く、どうして皆、坊主頭なのか? 練習中に「オーエーィ!」などと声を上げることに、何の意味があるのか? 何故ガムを噛みながらプレイしてはいけないのか? etc……。改めて訊かれると理由らしい理由がある訳ではなく、「そういうもんなんだよ」としか答えられないプリミティブ過ぎる問いかけに、監督も選手も皆タジタジ。
 そんなクリスと仲良くなってゆくにつれ、主人公の恭一の胸には、根源的な疑問が芽生える。即ち、プロになれる訳でもないのに、毎日苦しい思いをして野球を続けるのは何故なのか? 遊びたいのを我慢して毎日白球を追いかけることに何の意味が在るというのか? 無意味だと解っているにも関わらず、野球をやめられないのはどうしてなのか?
 ……こういうことを真面目に真剣に考えちゃうんだよね、青春ってのは(笑)。だけど、多分それで良いんだろう。大人になったら生活やら仕事やらに追われまくって、いちいち立ち止ってられなくなるから。かつて、コピーライターの中畑貴志さんだって言ったじゃないか。みんな悩んで大きくなった。

 ではその悩みに恭一は、そしてクリスは、どんな答えを出したのか。それは多分、読む人それぞれで受け取り方が違うと思うからここには書かない。ただ一つ、そんな風に損得勘定抜きで悩んだり行動したり出来る最後の季節の清々しさが、『白球アフロ』には溢れているとだけは言っておこう。
 そうそう、試合中の描写がめっちゃリアルだってことも、慌てて付け加えておきたい。4-6-3のダブルプレーとか、もう映像を見ているような臨場感で、野球ファンなら興奮でじっとしてられなくなること請け合いだ。(沢田史郎)

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『フロイデ!』坂口理子 Linda books! 9784803003680 ¥620

明響音楽大学4年の水沢裕一は、やる気も技術もないダメ音大生。なんとか就職も決まり、大晦日におこなわれる定期演奏会だけ乗りきれば卒業……と思っていた。ところが、教授に「70年ぶりの『第九』演奏なのに、こんな演奏では、到底卒業はさせられない!」と言われてしまう。あせる卒業メンバーたち。そんなある晩、練習のために忍び込んだ取り壊し寸前の「旧音楽堂」で、戦争で亡くなったかつての音大生の幽霊に出逢う……。(Linda books! HPより抜粋)

 俗に「会うは別れのはじめ」などと言う。ツーと言えばカーと応える竹馬の友も、長年連れ添ったおしどり夫婦も、いつかは別れる定めだそうだ。その苦しみを仏教では、愛別離苦として八苦の一つに数え上げているくらいだから、人は大昔から、親しい人と別れる辛さを噛みしめてきたに違いない。
 そんな辛い思いをするくらいなら、いっそ出会わない方が幸せだ。なんて後ろ向きなことを言う方にこそ、この『フロイデ!』は読んで欲しい。

 舞台はどこぞの音楽学校。登場するのは、校史稀に見る落ちこぼれ揃いの四年生たち。年末の定期演奏会の出来次第では卒業が取り消されると聞いて俄かに焦るも、急に腕前が上がる訳もなく、途方に暮れていたある夜のこと。
 ひと気の無い音楽堂で練習している彼らの前に不意に現れたのは、七十年前の戦争で命を落とした卒業生の幽霊たち。どうやら空襲で中断された定期演奏会に未練を残して、成仏出来ずにいたらしい。ならば……存命中は天才の誉れ高かった大先輩の幽霊たちが、現役四年生たちと一緒に演奏すれば、現役は卒業できるし幽霊は成仏出来るし、一石二鳥ではないか!
 以降、次から次へと繰り出される、幽霊と学生たちのトンチンカンなコミュニケーションが、とにかく笑える。何しろ幽霊たちは戦前の厳格な教育を受けた人たちだからね、自分にも他人にもめったやたらと厳しいし、妥協とか打算とか惰性とか一切無縁。朝早くに「起きないと祟るぞ」とかって叩き起こされるし、夜は夜で何時間もぶっ通しで練習させられるし、授業中にまで現れて板書しろだの集中しろだの煩いし、挙句は好きな女の子への告白まで勝手に取り仕切っちゃうし、しかも何故か幽霊が見えるのは四年生だけらしく、結果、幽霊とコミュニケーションをとっている姿が周りからは一人でブツブツ言ったり叫んだりしている超アブナイ人にしか見えず変な噂立てられるし、とうとうメンバーの一人が【マジうぜえんだよ!】とブチ切れても、【「まじうぜえ」とは何です?】と、全く以って暖簾に腕押し、糠に釘(笑)。
 だけどもね、数々の苦言やお節介も、戦時下で学問も演奏も恋愛すらも制限されていた彼らだからこそ。お前たちには、学ぶ機会も練習する時間も想いを伝える自由もあるではないか。何故それを無駄にする!? ……そんな老婆心に四年生たちが気付き始める辺りから、恋と友情の物語は俄然熱を帯びて来る。
 定期演奏会で無事に『第九』を演奏し切れば、現役は卒業できるし幽霊は成仏出来る。でも……。

 例えば、朝倉かすみさんの『田村はまだか』(光文社文庫)に、こんなセリフが登場する。
【どうせ死ぬから、今、生きてるんじゃないのか。どうせ小便するからって、おまえ、水、のまないか? どうせうんこになるからって、おまえ、もの、くわないか? 喉、渇かないか? 腹、すかないか? 水やくいものは、小便やうんこになるだけか?】
ならば、どうせ別れるからこそ共にいる今を愛おしむ、そんな出会いだって在っていい。出会いの数だけ別れはある。だがどんな「別れ」だろうと、「出会い」を無かったことには出来ない筈だ。そう、共に過ごした時間は決して消えない。そして、出会う前には無かった何かが、胸の奥にきっと残っているに違いない。
『フロイデ!』の幽霊たちの演奏からは、そんなメッセージが響いてくるような気がしてならない。(沢田史郎)

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『チロ愛死』荒木経惟 河出書房新社 9784309272122 ¥1,575

ベストセラー『愛しのチロ』でも知られる、アラーキーの愛猫チロ。22年をともに生きたチロの死を看取り=見撮り、チロへの深い愛を、切ないまでに焼きつけた、感動の写真集!(河出書房新社HPより)

とある本屋さんで、はじめてこの本の表紙を見たとき、わたしは動けなくなってしまった。
そのままその本の前に立ちつくして、涙がとまらなくなった。
恥ずかしいから、どうにかして止めようとしたのだけど、止まるどころかさらにしゃくりあげて泣くしまつ。
中身はおろか、その本にさわってもいないのに、表紙を見ただけで、どうにもできない感情で心をわしづかみにされたのだった。

写真というのは、ただのひとつの情景を切り取った一枚の絵にすぎない。それも絵画のように何日も何日も時間をかけて塗り込んでいくような、手間もかかっていない。パチリとシャッターを押す。その瞬間にほぼ全て決まってしまう。
それなのにこの芸術は、ときにものすごい力をはなつことがある。一瞬で魅了される。目が離せなくなる。命がやどっている、と思うことが少なからずある。

荒木経惟さんの撮る愛猫"チロ"
この本の表紙を見たとき、これはこの猫の最後の命が燃えている瞬間だとわかった。
もう明らかに動かない体をよこたえて、でもカメラの向こう側にいる人間を見つめる、最期のまっすぐな目線。
荒木さんにしか撮れない写真だ。

ページをめくってみて、驚いた。チロが弱っていく様子がずっととらえられているが、その間に縛られて裸でいる女性たち、恐竜、グロテスクな植物などが、一緒に並べられている。
わたしは驚いたけども、同時に鳥肌が立つほど感動した。そこにあるのは、なんの装飾もされていない生だったから。
飾られて、綺麗な部分しか映されないテレビや小説の中の死、実際はそんなふうに死んだりなんかしない。実際はそんなふうに泣いたりなんかしないってなんべん思ったかしれない。
この写真たちにはそんなきれいな死や涙はひとかけらもなかった。
ガリガリに老いて、みすぼらしく少しずつ死んでゆく物体としての体。人間の欲望まるごとを大らかに受け止める裸の女たち。最愛の奥さん陽子さんと過ごしたベランダ。そのベランダを埋める恐竜のオモチャたち。そしてそのぜんぶを見つめていた荒木さんの愛。
ページの最後はベランダから定点観測し続けていた空の写真がならぶ。構図もまったく配慮されていないただの空。ただの民家の上の空。
でもひとつとして同じじゃない。一緒に見上げた空。
目には見えないけど、そこにある家族の歴史。それはそんなに軽いものじゃないのだと思う。
それをこんなふうに生々しく、激しい愛を持って表現されたものは他にないのではないか。
わたしは、いまだに開くたびに少なからぬ衝撃をうけるこの写真集に出会えたことを、素直に喜ぶ。(酒井七海)

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『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ/山川紘矢 山川亜希子・訳 角川文庫 9784042750017 ¥580

羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドへ旅に出た。錬金術師の導きと様々な出会いの中で少年は人生の知恵を学んでゆく。世界中でベストセラーになった夢と勇気の物語。(角川書店HPより)

「これ、お餞別」
受け取るとすてきな笑顔で
「きっと、この旅行のあいだに読むのがいいと思うんだ」
と言った。

表紙には『アルケミスト 夢を旅した少年』とあった。

そのときわたしはアルバイトをやめて、はじめての長いひとり旅を計画していたのだった。たいていの人はそれを聞いて、大丈夫なの!? とちょっと眉をひそめたりしたのだけど、そのアルバイト先の店長が、「酒井さんらしいね~。きっと君なら大丈夫だよ」
と、ほんわりした笑顔で言ってくれ、この本を手渡してくれたのであった。店長、、、(回想)

でも旅中、最初の数週間は、本のことなんてすっかり忘れていた。
楽しんではいたけれど、やっぱり緊張でガチガチだったんだと思う。
必要以上のお金を払わせられないように必死で交渉し、よってくる人はみんな疑わしくていつもさぐっていた。

旅は楽しかったけど、疲れた。

小さな島々をまわっているときに、本をひっぱりだした。
時間だけはたっぷりあったから、日が暮れるまでビーチで読んだ。
それは、ひとりのひつじ飼いの少年“サンチャゴ”が、宝物をさがしにピラミッドへ旅に出るというお話だった。
読み終わると、からだ中の力がいい具合にぬけた感じがした。べつにどの部分に感銘をうけたとか、自分の行いを振り返って反省したとか、そういうことはまったくなくて、ただそのまま受け入れた感があった。
作品の持つ何かを理解していたのかどうか、甚だあやしいのだが、
それからはとにかく閉じていた自分をひらいた。
話しかけてくる人みんなうさんくさいと拒絶したりはせず、一度話を聞いてみることにした。おこったトラブルに気持ちをやられたりせず、おこったことはおこったこととして受け止めて、それからどうするかと考えるようになった。
結果たくさんの出会いが。

忘れられないのは、ある街に数日滞在したとき、現地の男の子に会った。そのときは普通に話して、路上でご飯をたべて、またねって別れたんだけど、二週間ほど旅行して最後に同じ街に帰ってきたときに、その子に偶然また会った。
彼は覚えててくれて、今日で旅は最後なんだと伝えると、じゃあパーティしようと言って、クラブへ連れて行かれた。でも踊るわけでもなく、ただ飲んで、ただしゃべった。
彼はわたしに夢を教えてくれた。
いつかバンドをくんで黒いベスパに乗って、国中をツアーで歌ってまわるんだと。
黒いベスパがゆずれないポイントのようで、何度も何度もそう言った。
それから、夢がかなったら日本にもいくね。と。
かたことの英語で会話しながら朝まで飲んで、結局ホテルには帰らなかった。
そのままわたしをバス停まで送ってくれた。
バスのドアが閉まる前に見た彼の顔が、わたしにはどうしてもサンチャゴに見えてしかたなかった。夢をおい続けたひつじ飼いの少年に・・・。(酒井七海)



(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

以下、出版情報は『読書日和 9月号』製作時のもです。タイトル、価格、発売日など変更になっているかも知れませんので、ご注意ください。

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編集後記
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連載四コマ『本屋日和』
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by dokusho-biyori | 2013-06-25 10:00 | バックナンバー | Comments(0)