読書日和

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「読書日和」備忘録

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14年11月 後編

⇒前編から続く

短期集中連載
『世界一の本の町 神保町の歩き方
            ~超初心者向け』1.

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どんなに近場だって旅はできるのだ。
なにも高級ホテルに泊まったり、世界遺産を見たり、人であふれかえるパワースポットにたたずんだりすることだけが旅ではない。というかむしろそれは旅ではない。〝 観光 〟 と言います。
いつもよりも、少しだけ感性の毛穴を開いて、目で見て、耳で聞いて、舌で味わって何を感じたか。そういうものを心のアルバムに丁寧におさめてゆくのが旅だとわたしは思っている。
だからいつだってどこだって旅はできるのだ。

旅に出るときは、気持ちが所在なくふわふわし、これからおこるすべてのことを目に焼き付け、耳に残すための準備をからだがしはじめる。
そして意味もなくにやにやする。意味もなくうれしくなる。
歌もうたう。

行き先は 神保町
本の街 神保町
(サイレンナ~イ ホーリーナ~イ)

えっ、旅って神保町かよって?
そうです。目と鼻の先神保町です。ほんと近くてごめん。

本の街「神保町」というと本好きたちの聖地であり、当然わたしも強いあこがれを持ってあがめ奉っているホーリープレイスだ。
いつかこの町を我が物顔で歩き、あ、ここの餃子おいしいのよ。そう、みんなカレー屋に行きたがるけどねぇ。正直もうあきたっていうかー・・・などと知った風に言ってみたいぢゃーないか。
しかし、実際は目と鼻の先といえどわたくし数えるほどしか行ったことがなく、行っても、やたらめったら適当に入ったり、入れなかったり(入りづらい・・・)するもんだから、店も道も覚えられないったら。
結局いつも駅周辺で何件か見て、力つきてしまう場所なのだ。

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そんなわたしを見かねた本の雑誌社の泣く子も黙る炎の営業、杉江由次氏がなんとこのたび仕事をほって神保町を案内してくれるという!
なんと! こんな郊外の一書店員のために、一日費やしてくれるなんて、どこまでやさしいのでしょう!!
と、つい感動しそうになってしまうのだが、実はうちの上司・沢田と杉江氏が、今度本の雑誌社から出る新刊『古本屋ツアー・イン・神保町』について話しているときに、実際にやってみたらいいじゃん。神保町ツアー! それおもしろそうじゃーん! そんでコラムでも書いたらいいじゃーん! と言い出し、いたってかるーいノリでやりましょうやりましょうということになったのだった。
そして、わたしも同じくいたってかるーい人間なので、わーいわーいと乗っかったというわけでこの日をむかえたのである。

さてまずは神保町のメッカ、本好きならば知らない人はいない老舗名店「東京堂」さん・・・・・・の裏手にある本の雑誌社に向かうのである。
はじめて行ったのだけど迷わず着いた。看板らしきものも何もなかったのだが、5Fまであがると本の雑誌社と書かれた扉が奥に。
ちょっとどきどきしてたから、ここでほっとする。
ノックをするとさっそく杉江氏の声が。さらにほっとする。

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      ほほえむ杉江氏

わぁ、ここが出版社さんかぁ。
ここで椎名さんや沢野さんが・・・などと妄想。(実際は2年前に本社をお引っ越しされているのできっと関係ないと思うのですが勝手に妄想)。
中は数人の社員さんが働いており、みなさん笑顔で歓迎してくれる。
『本の雑誌』にたびたび登場するMさんのお姿も見られ、あーあのひと! と内心きゃぴきゃぴする。
社長さんがご不在とのことで、みなさんどこかのびのび・・・あ、いやきっといつも通り楽しそうに仕事をされていた・・・と思う。

さて、杉江氏が神保町の地図を用意していてくれた。
見るだけでわくわく度MAX。
事前にチェックしておいてくれたらしく、ところどころ書き込みが入っている。〝 建築書 〟 とか、〝 2Fカフェ気持ちいい 〟 とか 〝 入りにくい 〟 とか 〝 入りにくい1位 〟 とか!
さすがなのである。わたしは幸い地図は読めるほうである(自称)ので、これがあれば次回以降迷わず意中の店にたどり着けるではないか。
そういえば地図って見てるだけて、胸がはずむ。
特に小さな街の観光ガイド。細かい書き込みがたくさんされていて、独自の視点も見つかるし、書き込むこともできる。
後で自分の記憶におさめる際にも、色鮮やかに思い出をよみがえらせてくれる。近場でも旅はできるけれど、旅に地図は必需品だなということを、このときわたしは杉江氏から学んだ。
永久保存版だコレ。
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好きな本の話など話しながら、じゃあこことこことあそこに行きましょうとてきぱきと決める男・杉江氏。
かっこいい~! さすが庭! わたしはこうなりたいのである。目標・杉江氏!

いざゆかん、本の宝に埋もれた桃源郷 魅惑の神保町へしゅっぱーつ!
やれやれやっとはじまった。つづく(酒井七海)

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(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

以下、出版情報は『読書日和 11月号』製作時のもです。タイトル、価格、発売日など変更になっているかも知れませんので、ご注意ください。


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酒井七海の「きょうの音楽」
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編集後記
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連載四コマ「本屋日和」
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by dokusho-biyori | 2014-10-31 15:07 | バックナンバー | Comments(0)

14年11月 前編

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『ひょうたん』宇江佐真理 光文社文庫 9784334745547 ¥552+税

 本所五間堀にある古道具屋・鳳来堂。借金をこさえ店を潰しそうになった音松と、将来を誓った手代に捨てられたお鈴の二人が、縁あって所帯をもち、立て直した古道具屋だった。ある日、橋から身を投げようとした男を音松が拾ってきた。親方に楯突いて、男は店を飛び出してきたようなのだが……(表題作)。江戸に息づく人情を巧みな筆致で描く、時代連作集!(光文社HPより)

『弩』下川博 講談社文庫 9784062773003 ¥724+税

 十四世紀中頃、因幡の国・智土師郷の村民は、厳しい年貢の取り立てに貧窮の生活を強いられていた。村を豊かにしようと吾輔は、村の特産物渋柿に目をつけ商売を軌道に乗せる。そこに村の繁栄に目を付けた、悪徳武士の一味が帰ってくる。智土師郷に桃源郷の理想をみる鎌倉から来た光信や、蒙古の捕虜の子孫義平太とともに、吾輔は村の防衛のため戦うことを決意する。村勝利頼みの綱は、弓兵器の「弩」農民と武士の一騎打ちが始まる。(講談社HPより)
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津田沼の摩天楼こと沢田さんからご指名頂き、駄文を晒すこととなりました、エクスナレッジの右田と申します。よろしくお願い致します。

最近「絆」だとか「思いやり」などの言葉をよく見かけます。
助け合いの精神が広がっているみたい。個人的には好きな言葉です。
誰かに助けられっぱなしの人生を送っている私などは、いつの日か誰かの役に立てればなと、チャンスをうかがう毎日なのです。

もともと日本人には「ボランティア精神」なんて言葉がやって来る前から、助け合いの文化が人々の生活に根付いていました。
「困った時はお互いさま」の精神。私はこれを「長屋の文化」と呼んでいます。

山本周五郎や半村了の市井ものを読むと、よくこんな場面に出会えます。
「おまつさん。買い忘れで味噌が切れちゃってね。悪いけどちょいと分けちゃくれないかね?」
「あぁ、後で持ってくよ。その代わりうちは塩がないや。あるかい?」
「あるよ。持ってきな。ついでにこの前買いすぎたネギもあるから何本か持って行きなよ」
「助かるねえ。それじゃ遠慮なく」
なんとも素敵な文化なのです。

そんな江戸の市井に触れたい時に読み返すのが、宇江佐真理の『ひょうたん』。
本所の市井の緩やかな空気、そして美味そうな料理の匂いまで伝わってくる。さらに読んでいると腹も減ってくるのです。
鳳来堂には夜な夜な友人達が集まり、酒盛りが始まる。女房はたまにイラっとしつつも、美味い肴を出す。

貧乏だけど、いや貧乏だからこそ肩寄せ合い皆で生きて行く長屋の面々。市井の暮らしの根幹がここにあるのです。そして誰もが幸せになろうと頑張って生きている。忘れたくない文化や精神は、時代小説の中に詰まっているのです。

山本周五郎の『ちいさこべ』(新潮文庫)や、中島要の『江戸の茶碗』(祥伝社)などもオススメ。
「長屋の文化」に触れると、心がほっこりしてくるのです。



♪片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を……(「サムライ」沢田研二)
そう、男の子はいつでもサムライなのである。
幼い頃は木の枝を片手にチャンバラごっこ。戦隊ヒーローの誰々を名乗る子もいたが、僕は必ず二本刺し。前髪も残ったまんまの二本刺し。
そう、サムライは憧れだったのだ。

とは言え、幕藩体制下において武士など実はひと握り。八割方はお百姓さんで、高い年貢を払い、藩を支えていたのもお百姓さん。
よく調べてはいないが、おそらく僕の先祖もお百姓さんだろう。
お上にも上司にも頭が上がらないのは、昨日今日に始まったことではないみたいだ。

そんなわけで、お百姓さん達がお上に対して立ち上がる姿には妙に感銘を受ける。
下川博『弩』にはそんなお百姓さん達のSoulがふんだんに詰まっている。
「桃源郷とは人が歳の順に死んでいける土地」と主人公は言う。この当たり前がまかり通らない世の中で、お百姓さん達は立ち上がり、奮い立つ。

安らぎを求めて Get up, stand up.
農民達は立ち上がる Stand up for your rights.

ガツンと来る作品なのです。

最近は「侍ジャパン」「侍ブルー」なんて言葉もよく聞くなぁ。やはりサムライは皆の憧れなのだ。
それでも地べたを這い、なんど踏まれても立ち上がる雑草魂、そう、百姓Soulを大切にしていきたいものだ。
池井戸潤で熱くなった方、こちらの作品でも熱くなって下さい!(以上二点:エクスナレッジ営業部 右田俊貴)



『ハリー・クバート事件』ジョエル・ディケール/橘明美 訳 東京創元社 上巻9784488010263 下巻9784488010270 各¥1,600+税

デビュー作が大ヒットして一躍ベストセラー作家となった新人マーカスは第二作の執筆に行き詰まっていた。そんな時、頼りにしていた大学の恩師で国民的作家のハリー・クバートが、少女殺害事件の容疑者となる。33年前に失踪した美少女ノラの白骨死体が彼の家の庭から発見されたのだ! マーカスは、師の無実を証明すべく事件について調べ始める。全ヨーロッパで200万部のメガセラーとなったスイス人作家ディケールのミステリ登場。(東京創元社HPより)
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アメリカの片田舎、ホットドックスタンドとさびれたパブ、少女の行方不明事件、誰もが何かを隠しているような不穏な空気、国道沿いのダイナー・・・
このキーワードを聞いて、ドキドキしないってひとはもう次行っちゃって!
でも、ひとつでもひっかかるって人は思い出さないですか? あの伝説のドラマ『ツイン・ピークス』を・・・。
そう、本書はあれを彷彿とさせるものすごいエンタメミステリーなのだ!

著者のジョエル・ディケールさんはスイス生まれの29歳。
なんとこれが処女作だそう。処女作があっという間にヨーロッパ全土でに200万部の大ヒットで、奇しくもこのハリー・クバート事件の主人公マーカスと同じ道を歩んでいる。
マーカスは作品中2作目でライターズブロック(作家のスランプのこと)になり、書けなくて事件に巻き込まれていくけれど、ジョエルさんはそうならないことを祈ります。
ていうか2作目も待ち遠しくてしょうがないから早く書いて!

さて本作、たしかにヨーロッパ人が書いたザ・アメリカンという感じは否めないし、荒けずりなところも、力技なところも多々ある。
でもそこが逆にいいのだ。だからこそ有無を言わさぬ力でぐいぐいのめり込ませていく力がこの作品にはあると思う。

ミステリーの紹介の常として、細かいところを書き出すとネタバレしてしまうのがつらいんだけど、ひとつ書いておきたいのは、殺害された少女ノラのこと。物語の現在では少女はすでに白骨化してまっていて、姿形もない。それなのに彼女の存在感がものすごい。
作中のハリーの回想シーンの中だけに出てくるのだけれど、本当に魅力的なのだ。15歳なのに、その倍の歳だったハリー・クバートを夢中にさせたのもよくわかる。
ときに10歳の少女のようにあどけなくはしゃぎ、ときに30歳の大人の女性のように物憂げな目をし、まだ行き先の定まらない不安定な美しさは、わたしたちをも魅了する。
こういう存在が中心にいるからこそ、その他の登場人物も生きてくるのではないでしょうか。
そう、他にもお決まりと言われるキャラクターがたくさん。
レストランの口うるさい女主人、その女主人の気の弱い夫、たぶん口ひげをはやしてるえらそうな警察署長、商品をヒットさせることしか頭にない大手出版社社長、がんこものだけど根はいい州警察巡査部長・・・
などなど。
しかし、後半はもうどの人が怪しくてどの人は怪しくないのかわからないほどみんな怪しい!
田舎特有のあどけない悪意を蔓延させながら、みんながみんなを疑い、そしてかばい合っていくのでなかなかどうして、事件は二転三転していく。

個人的にこの『ハリー・クバート事件』久しぶりにあの『ツイン・ピークス』のワクワクが味わえた。雰囲気もそうだし、キャラクターたちから目が離せなくなっていく感じも同じで、ページをめくるのももどかしいほどに、先に先に読み進めてしまった。まったく秋の夜長にぴったりの完璧なポップコーンミステリです。
と、この原稿を書いた後なんとリンチ監督から正式に『ツイン・ピークス』続編の知らせが! なんと・・・わたしまだ呆然としておりますよ。・・・生きててよかった。
新しいツイン・ピークスが日本にやってくるのはもう少し先でしょうから、みなさんはまずはこの『ハリクバ事件』から楽しんでください。寝不足覚悟!(酒井七海)



『ゼロの日に叫ぶ 戦力外捜査官3』似鳥鶏 河出書房新社 9784309023335 ¥1,400+税

 都内の暴力団が何者かに殲滅され、偶然居合わせた刑事2人も重傷を負う事件が発生。警視庁の威信をかけた捜査が進む裏で、東京中をパニックに陥れる夜が迫っていた……人気シリーズ第3弾!(河出書房新社HPより)
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 カーク・ダグラス主演の映画『スパルタカス』と言っても、お若い方にはピンと来ないかも知れない。古代ローマ帝国が衰亡していく遠因になったとさえ言われる奴隷の大反乱、スパルタカスの乱を描いた1960年のアメリカ映画だ。
 一時期は数万人にまで膨れ上がった反乱軍は、イタリア脱出まであと一歩というところまでこぎつけるも、最終的にはローマ政府の大軍団に大敗する。戦いが終わり、武器を取り上げられて大草原でうずくまる数千人の奴隷たち。映画では、その数千人に向かってローマ軍の将が呼びかける。この反乱の首謀者であるスパルタカスただ一人を差し出せば、他の全員の命は助けることを約束しよう、と。ローマ帝国の将軍ともあろう者が奴隷ごときの顔など知る筈が無く、スパルタカスを召し取るためにはこうする他に手が無いのだ。しかし、僅かに逡巡したスパルタカスが意を決して立ち上がろうとしたその刹那、あらぬ方向から朗々と響き渡った声がある。〝 I’m Spartacus ! 〟 と。スパルタカスがハッとして振り返るその間にも、向こうで一人、こっちでも一人、スパルタカスを名乗って立ち上がったかと思うとその数は見る間に増えて、遂には何百人という数の奴隷たちが口々に 〝 I’m Spartacus ! 〟 を連呼し始めたではないか! そして、スパルタカスの頬を伝うのは滂沱の涙……。

 そんな名画のワンシーンを思い出しながら、「戦力外捜査官」シリーズの第三段『ゼロの日に叫ぶ』を読了した。一人の勇気だけでは取るに足りない。二人だけでも、無いのと一緒。十人だって焼け石に水。だけどそれが、何百、何千と集まった時、どんな英雄や権力者をも凌ぐ大きな力になることが、きっとある。そういう些細な、一つ一つはちっぽけな勇気や根性を描かせたら、似鳥鶏さんはめっぽう上手い。
 費やした労力の九割が無駄になると解っていながら残りの一割のために現場から現場へと駆けずり回る捜査官たちの地味な気骨が恰好良かった、シリーズ第一弾。主婦やタクシーの運転手、病院の副院長やテレビ局のディレクターなどなど、そんじょそこらの名もなき庶民の気概と責任感に、喝采を叫ばずにはいられなかった第二弾。そしてこの度の第三弾では、どこの誰とも解らない一寸の虫たちの五分の魂の清々しさに、またもやまんまと泣かされた。いやぁ、このシリーズいいわ。仮に謎解きの要素が皆無だったとしても、人間の善意と誇りと勇気の物語として、末代まで語り伝えたいところである。

 今回は、のっけからいきなりのバイオレンス。都内の牛丼屋で、闇金業者が標的と思われる発砲事件が勃発する。八発の銃弾が発射され、巻き添えの市民を含めて二人が死亡、四人が重軽傷という大事件に、特別捜査本部が設置されたその直後、今度は上野にある暴力団事務所が何者かに襲撃される。その場にいた七人が惨殺され、たまたま別件で訪れた二人の刑事も、巻き添えを喰らって重傷を負う……。
 そして、当然ながら上を下への大騒ぎになる警視庁に於いて、我らが設楽巡査と海月警部が何をしていたかと言うと、そこは「戦力外捜査官」の名に恥じず、足を引っ張る前に捜査本部からは外されて、放火によると思われる地味なボヤ騒ぎの捜査に回される、という幕開け。そのボヤが実は単なるボヤではなさそうだと気付いた海月たちは、戦力外扱いをいいことに、独自で捜査を進めるが……。

 似鳥鶏さんはシリアスな作品を描かせても恐らく相当読ませる筈、とは前々から思っていたし期待もしていたんだが、それが間違いではなかったことが今回の第三弾で証明されたと断言したい。とは言え勿論、設楽&海月コンビがシリアスなだけで終わる訳がなく、脱力するところはこれまで以上に思いっ切り脱力させてくれるからお楽しみに。ハラハラドキドキ手に汗握っている最中に「ウーパールーパー」の解説が飛び込んできてずっこけたりなどという硬軟の絶妙なバランスは、ファンには恐らく説明不要。同時に、第一弾からレギュラーで登場し続ける個性溢れる面々の描き分けも益々巧みで、登場人物が多い作品にありがちな「あれ? これ誰だっけ?」的な混乱が全く生じないのも、似鳥作品の凄いとこ。そして、以前であれば単純に「足手まといのお嬢さん」扱いだった海月の、その勘と推理に周りが一目置くようになっているなど、第一弾からの時間の経過に伴って人間関係もきちんと変化させていたり、そういう些細なリアリティの積み重ねが本当に多くて、「神は細部に宿る」とは似鳥作品の為にあるのではないかとさえ思う。
 そして、いよいよクライマックス! 冒頭でも述べた通り、小さな庶民のちっぽけな勇気でも数が集まればこんなにもデカいことを成し遂げられる! まるで『スイミー』(レオ・レオニ/谷川俊太郎 訳、好学社)のラストシーンを彷彿とさせるような一寸の虫たちの五分の魂に、名も無き庶民の一人である私は大いに勇気づけられた。

 チラと漏れ聞いたところによると今度は似鳥さん、「戦力外捜査官」シリーズのスピンオフを準備中だそうで、これから益々目が離せなくなりそうでござる。(沢田史郎)



『ふたつの星とタイムマシン』畑野智美 集英社 9784087715798 ¥1,500+税

 大学の研究室に置かれた、あやしい “ タイムマシン ”。美歩は、中学生の自分にある大切なことを伝えるため、半信半疑で乗り込むが……(「過去ミライ」)。ほか全7編、注目の若手実力派が贈る青春SF短編集。(集英社HPより)
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 ケン・グリムウッドの『リプレイ』(杉山高之 訳/新潮文庫)という作品がある。主人公が冒頭でいきなり死んでしまう、という珍しいタイプの小説だ。43歳で死んだジェフはしかし、ふと気がつくと43年間の記憶を保持したまま18歳に戻って、普通なら一度しか無い人生を幾度となくやり直す、という夢のような物語。あな、うらやまし。
 ところがこの作品、何度も何度も人生をやり直す中年男を描くことで、実は、人生は一度しか無いからこそ素晴らしいという、強烈なメッセージを発している。ネタが割れるので細かい事は言えないが、物語の終盤で人生の 〝 リプレイ 〟 から抜け出したジェフが、全く聞き覚えの無い音楽をふと耳にして、感情を爆発させる場面がある。〝 どんな歌であれ、今までにぜんぜん聞いたことのない歌を、なんと聞きたかったことか! 〟 というセリフには、今この瞬間からはかつて一度も生きたことの無い新しい日々が始まるのだ! という喜びが溢れていて、ただこの一言の為だけに『リプレイ』という小説は存在するのではないか、とさえ思う。

 話は変わる。
 漫画家の高橋留美子さんに『人魚の森』(小学館)というシリーズがある。主人公の湧太は人魚の肉を食って不老不死を手に入れて、なんと五百年も前から青年のまま人生を続けているという設定。赤ん坊でもなく年寄りでもなく、一生で一番活力に満ちた20代のまま歳もとらず死にもしないで青春を謳歌できるとは、これまたなんと羨ましい!
 ところが湧太は不老不死が不満らしい。普通に歳をとって老衰で死ぬことを願い、その方法を探し求めて旅を続けている。なんと勿体ないと思うのは早計で、湧太によると、例えば大切な女性と巡り合っても共に歳を重ねることすら許されないのなら、いっそ普通に老いて普通に死ぬ方が遥かに幸せな人生だと言う。う~む、そうかも。

 そして、畑野智美さんの『ふたつの星とタイムマシン』では、今からほんの少しだけ未来が描かれる。その頃の日本ではタイムマシンの研究が飛躍的に進んでいて、現代に於けるリニア新幹線のように、「実用化まであと一歩!」と期待を以って騒がれている。また、超能力者が二千~三千人に一人の割合で存在することが認知されており、今で言う「のど自慢」的に超能力を披露し合うTV番組があったりもする。
 そんな世界で展開するのは、名も無き普通の男女が体験した、ちょっとだけ普通とは違う人生の一コマ。
 例えば第一章に登場する女子大生は、大学の研究室に半ば放置されていたタイムマシンを使って、悔やみきれない過去を変える為に、中学三年生の自分に会いに行く。
 第三章では、自分の周りの時間の流れを遅らせることが出来る小学生が、その能力を駆使してテストで良い点を取り、テレビにも出て超能力アイドルとしてブレイクするという夢を追う。
 その他、誰とでも仲良くなれる「友だちバッジ」で友だちを増やそうとする男の子や、「惚れグスリ」を使って片想いの相手を振り向かせようとする青年など、登場するのは全部で7人。その誰もが、まるでドラえもんの道具の如き不思議な力を手に入れるのだけど、ではその夢のような機械や能力を使うことで彼らは前よりも幸せになれたのか? その答えは、例えば第一章に登場するタイムマシンの研究者が端的に述べている。
〝 過去を変えたら、もっと悲惨な未来になるかもしれない。今が一番いいと思っていた方がいいです 〟
 今が一番いいと思っていた方がいい! なんて素晴らしい言葉だろう!

 要するにこれら三作品には、人生は思うに任せないからこそ生きる価値がある! という力強いメッセージがこめられていると思うのだ。生まれ変わったり不老不死を手に入れたり、はたまた時間を自由に操ったりしたところで、決して神様になれる訳ではなく、所詮人間のやることには限界がある。ならば、与えられた生を 〝 やり直しの効かないもの 〟 として精一杯生きるべきではなかろうか? 『ふたつの星とタイムマシン』という作品は、そんな普通の人生への、畑野さんからの応援歌なのではないかと思ったりするのだ。(沢田史郎)


⇒後編へ続く
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by dokusho-biyori | 2014-10-31 15:07 | バックナンバー | Comments(0)

14年11月 前編

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『ひょうたん』宇江佐真理 光文社文庫 9784334745547 ¥552+税

 本所五間堀にある古道具屋・鳳来堂。借金をこさえ店を潰しそうになった音松と、将来を誓った手代に捨てられたお鈴の二人が、縁あって所帯をもち、立て直した古道具屋だった。ある日、橋から身を投げようとした男を音松が拾ってきた。親方に楯突いて、男は店を飛び出してきたようなのだが……(表題作)。江戸に息づく人情を巧みな筆致で描く、時代連作集!(光文社HPより)

『弩』下川博 講談社文庫 9784062773003 ¥724+税

 十四世紀中頃、因幡の国・智土師郷の村民は、厳しい年貢の取り立てに貧窮の生活を強いられていた。村を豊かにしようと吾輔は、村の特産物渋柿に目をつけ商売を軌道に乗せる。そこに村の繁栄に目を付けた、悪徳武士の一味が帰ってくる。智土師郷に桃源郷の理想をみる鎌倉から来た光信や、蒙古の捕虜の子孫義平太とともに、吾輔は村の防衛のため戦うことを決意する。村勝利頼みの綱は、弓兵器の「弩」農民と武士の一騎打ちが始まる。(講談社HPより)
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津田沼の摩天楼こと沢田さんからご指名頂き、駄文を晒すこととなりました、エクスナレッジの右田と申します。よろしくお願い致します。

最近「絆」だとか「思いやり」などの言葉をよく見かけます。
助け合いの精神が広がっているみたい。個人的には好きな言葉です。
誰かに助けられっぱなしの人生を送っている私などは、いつの日か誰かの役に立てればなと、チャンスをうかがう毎日なのです。

もともと日本人には「ボランティア精神」なんて言葉がやって来る前から、助け合いの文化が人々の生活に根付いていました。
「困った時はお互いさま」の精神。私はこれを「長屋の文化」と呼んでいます。

山本周五郎や半村了の市井ものを読むと、よくこんな場面に出会えます。
「おまつさん。買い忘れで味噌が切れちゃってね。悪いけどちょいと分けちゃくれないかね?」
「あぁ、後で持ってくよ。その代わりうちは塩がないや。あるかい?」
「あるよ。持ってきな。ついでにこの前買いすぎたネギもあるから何本か持って行きなよ」
「助かるねえ。それじゃ遠慮なく」
なんとも素敵な文化なのです。

そんな江戸の市井に触れたい時に読み返すのが、宇江佐真理の『ひょうたん』。
本所の市井の緩やかな空気、そして美味そうな料理の匂いまで伝わってくる。さらに読んでいると腹も減ってくるのです。
鳳来堂には夜な夜な友人達が集まり、酒盛りが始まる。女房はたまにイラっとしつつも、美味い肴を出す。

貧乏だけど、いや貧乏だからこそ肩寄せ合い皆で生きて行く長屋の面々。市井の暮らしの根幹がここにあるのです。そして誰もが幸せになろうと頑張って生きている。忘れたくない文化や精神は、時代小説の中に詰まっているのです。

山本周五郎の『ちいさこべ』(新潮文庫)や、中島要の『江戸の茶碗』(祥伝社)などもオススメ。
「長屋の文化」に触れると、心がほっこりしてくるのです。



♪片手にピストル 心に花束 唇に火の酒 背中に人生を……(「サムライ」沢田研二)
そう、男の子はいつでもサムライなのである。
幼い頃は木の枝を片手にチャンバラごっこ。戦隊ヒーローの誰々を名乗る子もいたが、僕は必ず二本刺し。前髪も残ったまんまの二本刺し。
そう、サムライは憧れだったのだ。

とは言え、幕藩体制下において武士など実はひと握り。八割方はお百姓さんで、高い年貢を払い、藩を支えていたのもお百姓さん。
よく調べてはいないが、おそらく僕の先祖もお百姓さんだろう。
お上にも上司にも頭が上がらないのは、昨日今日に始まったことではないみたいだ。

そんなわけで、お百姓さん達がお上に対して立ち上がる姿には妙に感銘を受ける。
下川博『弩』にはそんなお百姓さん達のSoulがふんだんに詰まっている。
「桃源郷とは人が歳の順に死んでいける土地」と主人公は言う。この当たり前がまかり通らない世の中で、お百姓さん達は立ち上がり、奮い立つ。

安らぎを求めて Get up, stand up.
農民達は立ち上がる Stand up for your rights.

ガツンと来る作品なのです。

最近は「侍ジャパン」「侍ブルー」なんて言葉もよく聞くなぁ。やはりサムライは皆の憧れなのだ。
それでも地べたを這い、なんど踏まれても立ち上がる雑草魂、そう、百姓Soulを大切にしていきたいものだ。
池井戸潤で熱くなった方、こちらの作品でも熱くなって下さい!(以上二点:エクスナレッジ営業部 右田俊貴)



『ハリー・クバート事件』ジョエル・ディケール/橘明美 訳 東京創元社 上巻9784488010263 下巻9784488010270 各¥1,600+税

デビュー作が大ヒットして一躍ベストセラー作家となった新人マーカスは第二作の執筆に行き詰まっていた。そんな時、頼りにしていた大学の恩師で国民的作家のハリー・クバートが、少女殺害事件の容疑者となる。33年前に失踪した美少女ノラの白骨死体が彼の家の庭から発見されたのだ! マーカスは、師の無実を証明すべく事件について調べ始める。全ヨーロッパで200万部のメガセラーとなったスイス人作家ディケールのミステリ登場。(東京創元社HPより)
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アメリカの片田舎、ホットドックスタンドとさびれたパブ、少女の行方不明事件、誰もが何かを隠しているような不穏な空気、国道沿いのダイナー・・・
このキーワードを聞いて、ドキドキしないってひとはもう次行っちゃって!
でも、ひとつでもひっかかるって人は思い出さないですか? あの伝説のドラマ『ツイン・ピークス』を・・・。
そう、本書はあれを彷彿とさせるものすごいエンタメミステリーなのだ!

著者のジョエル・ディケールさんはスイス生まれの29歳。
なんとこれが処女作だそう。処女作があっという間にヨーロッパ全土でに200万部の大ヒットで、奇しくもこのハリー・クバート事件の主人公マーカスと同じ道を歩んでいる。
マーカスは作品中2作目でライターズブロック(作家のスランプのこと)になり、書けなくて事件に巻き込まれていくけれど、ジョエルさんはそうならないことを祈ります。
ていうか2作目も待ち遠しくてしょうがないから早く書いて!

さて本作、たしかにヨーロッパ人が書いたザ・アメリカンという感じは否めないし、荒けずりなところも、力技なところも多々ある。
でもそこが逆にいいのだ。だからこそ有無を言わさぬ力でぐいぐいのめり込ませていく力がこの作品にはあると思う。

ミステリーの紹介の常として、細かいところを書き出すとネタバレしてしまうのがつらいんだけど、ひとつ書いておきたいのは、殺害された少女ノラのこと。物語の現在では少女はすでに白骨化してまっていて、姿形もない。それなのに彼女の存在感がものすごい。
作中のハリーの回想シーンの中だけに出てくるのだけれど、本当に魅力的なのだ。15歳なのに、その倍の歳だったハリー・クバートを夢中にさせたのもよくわかる。
ときに10歳の少女のようにあどけなくはしゃぎ、ときに30歳の大人の女性のように物憂げな目をし、まだ行き先の定まらない不安定な美しさは、わたしたちをも魅了する。
こういう存在が中心にいるからこそ、その他の登場人物も生きてくるのではないでしょうか。
そう、他にもお決まりと言われるキャラクターがたくさん。
レストランの口うるさい女主人、その女主人の気の弱い夫、たぶん口ひげをはやしてるえらそうな警察署長、商品をヒットさせることしか頭にない大手出版社社長、がんこものだけど根はいい州警察巡査部長・・・
などなど。
しかし、後半はもうどの人が怪しくてどの人は怪しくないのかわからないほどみんな怪しい!
田舎特有のあどけない悪意を蔓延させながら、みんながみんなを疑い、そしてかばい合っていくのでなかなかどうして、事件は二転三転していく。

個人的にこの『ハリー・クバート事件』久しぶりにあの『ツイン・ピークス』のワクワクが味わえた。雰囲気もそうだし、キャラクターたちから目が離せなくなっていく感じも同じで、ページをめくるのももどかしいほどに、先に先に読み進めてしまった。まったく秋の夜長にぴったりの完璧なポップコーンミステリです。
と、この原稿を書いた後なんとリンチ監督から正式に『ツイン・ピークス』続編の知らせが! なんと・・・わたしまだ呆然としておりますよ。・・・生きててよかった。
新しいツイン・ピークスが日本にやってくるのはもう少し先でしょうから、みなさんはまずはこの『ハリクバ事件』から楽しんでください。寝不足覚悟!(酒井七海)



『ゼロの日に叫ぶ 戦力外捜査官3』似鳥鶏 河出書房新社 9784309023335 ¥1,400+税

 都内の暴力団が何者かに殲滅され、偶然居合わせた刑事2人も重傷を負う事件が発生。警視庁の威信をかけた捜査が進む裏で、東京中をパニックに陥れる夜が迫っていた……人気シリーズ第3弾!(河出書房新社HPより)
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 カーク・ダグラス主演の映画『スパルタカス』と言っても、お若い方にはピンと来ないかも知れない。古代ローマ帝国が衰亡していく遠因になったとさえ言われる奴隷の大反乱、スパルタカスの乱を描いた1960年のアメリカ映画だ。
 一時期は数万人にまで膨れ上がった反乱軍は、イタリア脱出まであと一歩というところまでこぎつけるも、最終的にはローマ政府の大軍団に大敗する。戦いが終わり、武器を取り上げられて大草原でうずくまる数千人の奴隷たち。映画では、その数千人に向かってローマ軍の将が呼びかける。この反乱の首謀者であるスパルタカスただ一人を差し出せば、他の全員の命は助けることを約束しよう、と。ローマ帝国の将軍ともあろう者が奴隷ごときの顔など知る筈が無く、スパルタカスを召し取るためにはこうする他に手が無いのだ。しかし、僅かに逡巡したスパルタカスが意を決して立ち上がろうとしたその刹那、あらぬ方向から朗々と響き渡った声がある。〝 I’m Spartacus ! 〟 と。スパルタカスがハッとして振り返るその間にも、向こうで一人、こっちでも一人、スパルタカスを名乗って立ち上がったかと思うとその数は見る間に増えて、遂には何百人という数の奴隷たちが口々に 〝 I’m Spartacus ! 〟 を連呼し始めたではないか! そして、スパルタカスの頬を伝うのは滂沱の涙……。

 そんな名画のワンシーンを思い出しながら、「戦力外捜査官」シリーズの第三段『ゼロの日に叫ぶ』を読了した。一人の勇気だけでは取るに足りない。二人だけでも、無いのと一緒。十人だって焼け石に水。だけどそれが、何百、何千と集まった時、どんな英雄や権力者をも凌ぐ大きな力になることが、きっとある。そういう些細な、一つ一つはちっぽけな勇気や根性を描かせたら、似鳥鶏さんはめっぽう上手い。
 費やした労力の九割が無駄になると解っていながら残りの一割のために現場から現場へと駆けずり回る捜査官たちの地味な気骨が恰好良かった、シリーズ第一弾。主婦やタクシーの運転手、病院の副院長やテレビ局のディレクターなどなど、そんじょそこらの名もなき庶民の気概と責任感に、喝采を叫ばずにはいられなかった第二弾。そしてこの度の第三弾では、どこの誰とも解らない一寸の虫たちの五分の魂の清々しさに、またもやまんまと泣かされた。いやぁ、このシリーズいいわ。仮に謎解きの要素が皆無だったとしても、人間の善意と誇りと勇気の物語として、末代まで語り伝えたいところである。

 今回は、のっけからいきなりのバイオレンス。都内の牛丼屋で、闇金業者が標的と思われる発砲事件が勃発する。八発の銃弾が発射され、巻き添えの市民を含めて二人が死亡、四人が重軽傷という大事件に、特別捜査本部が設置されたその直後、今度は上野にある暴力団事務所が何者かに襲撃される。その場にいた七人が惨殺され、たまたま別件で訪れた二人の刑事も、巻き添えを喰らって重傷を負う……。
 そして、当然ながら上を下への大騒ぎになる警視庁に於いて、我らが設楽巡査と海月警部が何をしていたかと言うと、そこは「戦力外捜査官」の名に恥じず、足を引っ張る前に捜査本部からは外されて、放火によると思われる地味なボヤ騒ぎの捜査に回される、という幕開け。そのボヤが実は単なるボヤではなさそうだと気付いた海月たちは、戦力外扱いをいいことに、独自で捜査を進めるが……。

 似鳥鶏さんはシリアスな作品を描かせても恐らく相当読ませる筈、とは前々から思っていたし期待もしていたんだが、それが間違いではなかったことが今回の第三弾で証明されたと断言したい。とは言え勿論、設楽&海月コンビがシリアスなだけで終わる訳がなく、脱力するところはこれまで以上に思いっ切り脱力させてくれるからお楽しみに。ハラハラドキドキ手に汗握っている最中に「ウーパールーパー」の解説が飛び込んできてずっこけたりなどという硬軟の絶妙なバランスは、ファンには恐らく説明不要。同時に、第一弾からレギュラーで登場し続ける個性溢れる面々の描き分けも益々巧みで、登場人物が多い作品にありがちな「あれ? これ誰だっけ?」的な混乱が全く生じないのも、似鳥作品の凄いとこ。そして、以前であれば単純に「足手まといのお嬢さん」扱いだった海月の、その勘と推理に周りが一目置くようになっているなど、第一弾からの時間の経過に伴って人間関係もきちんと変化させていたり、そういう些細なリアリティの積み重ねが本当に多くて、「神は細部に宿る」とは似鳥作品の為にあるのではないかとさえ思う。
 そして、いよいよクライマックス! 冒頭でも述べた通り、小さな庶民のちっぽけな勇気でも数が集まればこんなにもデカいことを成し遂げられる! まるで『スイミー』(レオ・レオニ/谷川俊太郎 訳、好学社)のラストシーンを彷彿とさせるような一寸の虫たちの五分の魂に、名も無き庶民の一人である私は大いに勇気づけられた。

 チラと漏れ聞いたところによると今度は似鳥さん、「戦力外捜査官」シリーズのスピンオフを準備中だそうで、これから益々目が離せなくなりそうでござる。(沢田史郎)



『ふたつの星とタイムマシン』畑野智美 集英社 9784087715798 ¥1,500+税

 大学の研究室に置かれた、あやしい “ タイムマシン ”。美歩は、中学生の自分にある大切なことを伝えるため、半信半疑で乗り込むが……(「過去ミライ」)。ほか全7編、注目の若手実力派が贈る青春SF短編集。(集英社HPより)
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 ケン・グリムウッドの『リプレイ』(杉山高之 訳/新潮文庫)という作品がある。主人公が冒頭でいきなり死んでしまう、という珍しいタイプの小説だ。43歳で死んだジェフはしかし、ふと気がつくと43年間の記憶を保持したまま18歳に戻って、普通なら一度しか無い人生を幾度となくやり直す、という夢のような物語。あな、うらやまし。
 ところがこの作品、何度も何度も人生をやり直す中年男を描くことで、実は、人生は一度しか無いからこそ素晴らしいという、強烈なメッセージを発している。ネタが割れるので細かい事は言えないが、物語の終盤で人生の 〝 リプレイ 〟 から抜け出したジェフが、全く聞き覚えの無い音楽をふと耳にして、感情を爆発させる場面がある。〝 どんな歌であれ、今までにぜんぜん聞いたことのない歌を、なんと聞きたかったことか! 〟 というセリフには、今この瞬間からはかつて一度も生きたことの無い新しい日々が始まるのだ! という喜びが溢れていて、ただこの一言の為だけに『リプレイ』という小説は存在するのではないか、とさえ思う。

 話は変わる。
 漫画家の高橋留美子さんに『人魚の森』(小学館)というシリーズがある。主人公の湧太は人魚の肉を食って不老不死を手に入れて、なんと五百年も前から青年のまま人生を続けているという設定。赤ん坊でもなく年寄りでもなく、一生で一番活力に満ちた20代のまま歳もとらず死にもしないで青春を謳歌できるとは、これまたなんと羨ましい!
 ところが湧太は不老不死が不満らしい。普通に歳をとって老衰で死ぬことを願い、その方法を探し求めて旅を続けている。なんと勿体ないと思うのは早計で、湧太によると、例えば大切な女性と巡り合っても共に歳を重ねることすら許されないのなら、いっそ普通に老いて普通に死ぬ方が遥かに幸せな人生だと言う。う~む、そうかも。

 そして、畑野智美さんの『ふたつの星とタイムマシン』では、今からほんの少しだけ未来が描かれる。その頃の日本ではタイムマシンの研究が飛躍的に進んでいて、現代に於けるリニア新幹線のように、「実用化まであと一歩!」と期待を以って騒がれている。また、超能力者が二千~三千人に一人の割合で存在することが認知されており、今で言う「のど自慢」的に超能力を披露し合うTV番組があったりもする。
 そんな世界で展開するのは、名も無き普通の男女が体験した、ちょっとだけ普通とは違う人生の一コマ。
 例えば第一章に登場する女子大生は、大学の研究室に半ば放置されていたタイムマシンを使って、悔やみきれない過去を変える為に、中学三年生の自分に会いに行く。
 第三章では、自分の周りの時間の流れを遅らせることが出来る小学生が、その能力を駆使してテストで良い点を取り、テレビにも出て超能力アイドルとしてブレイクするという夢を追う。
 その他、誰とでも仲良くなれる「友だちバッジ」で友だちを増やそうとする男の子や、「惚れグスリ」を使って片想いの相手を振り向かせようとする青年など、登場するのは全部で7人。その誰もが、まるでドラえもんの道具の如き不思議な力を手に入れるのだけど、ではその夢のような機械や能力を使うことで彼らは前よりも幸せになれたのか? その答えは、例えば第一章に登場するタイムマシンの研究者が端的に述べている。
〝 過去を変えたら、もっと悲惨な未来になるかもしれない。今が一番いいと思っていた方がいいです 〟
 今が一番いいと思っていた方がいい! なんて素晴らしい言葉だろう!

 要するにこれら三作品には、人生は思うに任せないからこそ生きる価値がある! という力強いメッセージがこめられていると思うのだ。生まれ変わったり不老不死を手に入れたり、はたまた時間を自由に操ったりしたところで、決して神様になれる訳ではなく、所詮人間のやることには限界がある。ならば、与えられた生を 〝 やり直しの効かないもの 〟 として精一杯生きるべきではなかろうか? 『ふたつの星とタイムマシン』という作品は、そんな普通の人生への、畑野さんからの応援歌なのではないかと思ったりするのだ。(沢田史郎)


⇒後編へ続く
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by dokusho-biyori | 2014-10-31 15:06 | バックナンバー | Comments(0)

沢木冬吾さんご来店

相変わらずの貧乏ヒマ無しで
ばたばたしていて書き込めなかったんだけど。

こないだ、
『約束の森』(角川文庫)沢木冬吾さん
ご来店下さいました!

で、書店員仲間7人でコメントを持ち寄って、
『読書日和』の村上が絵をつけたオリジナル帯。
こちらにドーンとサインを頂いたのです!!
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これでもはや、著者公認!!
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今週の文庫の週刊ベストでも、
宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』(新潮文庫)の4巻が1位で、3巻が3位で、
その間に『約束の森』が割って入って、堂々第2位!
7月に出た文庫が未だに第2位ですぞ!

どうやらまたまた重版も決まったようで、
名実ともに、沢木さんの代表作と言っていいでしょう。
未読の方は、是非!
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by dokusho-biyori | 2014-10-13 10:24 | サワダのひとりごと | Comments(0)

ちょいワル社史編纂室

毎度お馴染み『読書日和』の去年の9月号で、安藤祐介さんの『社史編纂室 アフター5魔術団』(幻冬舎)という作品を紹介したんだが、おぼろげにでも覚えておいでだろうか。いや、忘れててもいいから、本日只今もう一度思い出して頂きたい。

いや、『ちょいワル社史編纂室』とタイトルを変更した上で、文庫になったんだよ、この度めでたく。で、担当編集さんがわざわざ送ってくれたもんだから、久し振りに再読したら、やっぱり笑って泣けてスカッとした! 仕事仲間と、夫婦と親子と、そして家族の物語。¥770+税 とグッと手ごろになったこの機会にくどくお薦めしておきたい。

是非!
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by dokusho-biyori | 2014-10-11 22:30 | サワダのひとりごと | Comments(0)
朝日新聞出版さんから、
『コンバット!DVDコレクション』なるものが発売されるようですな。

私が中学3年生の頃だったかな、
土曜日の12:30だか13:00だかから再放送していて、
当時は土曜日も学校があって、
確か3時間ぐらい授業を受けて、掃除してHRやっておしまい。
ダッシュで帰宅して、昼ごはん食べながら見ていた記憶があります。
音楽も好きだったな。
ちゃらら、ちゃらららっちゃちゃ~ちゃっちゃちゃ~らら~、ってやつ。
ゴキブリ退治の「コンバット」のCMでも使ってましたね。
DVDコレクション、ちょっと欲しいな。

因みに、講談社さんから出ている
『あぶない刑事 全事件簿DVDマガジン』は集めました。
舘ひろし、カッケー。ああいうおじさんになりたいね。

そして、これ読んでる出版関係者さんがいたらお願い。
『ひとつ屋根の下』のDVD、出してくんない? 絶対買うから。
ちー兄ちゃんファンが圧倒的に多いんだろうけど、
俺は断然あんちゃん派。
当時は、大学生の間で男子のワンレンが流行ったなぁ。
後ろから見たら江口洋介ってのが、たくさんいた。
俺は、絶対に似合わないから、伸ばしたかったけど伸ばせなかった。

西田敏行さんの『池中玄太80キロ』も、ちょっと見てみたいな。
『もしもピアノが弾けたなら』が主題歌だったやつ。

田原俊彦の『教師びんびん物語』も、買いはしないけど見てはみたい。
あ、水谷豊さんの『熱中時代』も。

そうそう、
夏目雅子さんの三蔵法師がまぶしくて
マチャアキの悟空がめっちゃハマッてた『西遊記』
これは、出たら買う! GODIEGOの曲も懐かしいなぁ。

まぁそんな感じです(何がやねん)。
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by dokusho-biyori | 2014-10-01 19:05 | サワダのひとりごと | Comments(0)