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13年8月号

今月は、夏らしくお化け屋敷で。
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『まめねこ~あずきとだいず~』ねこまき さくら舎 9784906732470 ¥1,050
ある日、「飼い主さん」のところへやってきた、やんちゃで姉御肌のあずき♀と、食いしん坊でおっとりさんのだいず♂。かわいい! けど、なぜか関西弁のボケとツッコミで、とっても仲良しコンビです。「肌色」「もじゃ」「メガネ」「座敷おやじ」など、おもしろ家族の登場に、2匹もてんやわんやの大騒ぎ。くすりと笑えて、やさしいイラストに癒される、キュートなゆるねこ漫画です。(さくら舎HPより)



子ねこを飼ったことがある方はきっと、ものすごくわかっていただけるんではないかと思うのですが、ちっちゃくて、愛らしくて、ふあっふあで、ミルクのにおいとかしちゃって、つい食べちゃいたい気持ちにあらがえなくなって、鼻先を口にふくんでみてしまったり、、、、する(え、しない?)くらいか~わい~んだけど
残念なことに例外なく彼らはおバカなんですよね。

いや、子ねこにも性格はありまして、好奇心旺盛で動くものをどこまでも追いかけてしまい、足下見てなくて段差に気付かずおっこちる子もいれば、反対に臆病で、何をするにもおそるおそる、、、後ろにさがりすぎて、段差に気付かずおっこちる子もいます、、、。
うん、まあ最後はおっこちるんですけどね。
もう小さいしっぽをぴんとはって、全身の毛をさかだてて一生懸命シャーッとやっている相手が自分の影だったり、、、ミルクの飲み方がわからないくせに、よくばってあせって飲もうとするから体の半分が容器の中に入っちゃって、顔じゅう白ひげの小さいじいさんのようになってたり、、、
あーあげるときりがない。

そしてこの、コミック『まめねこ』のまめねこたんたちは、まさに典型的子ネコ!
強気で姉御肌だけど、臆病な“あずき”も、おっとりしていて何事にも動じず、気がつけばどこでも寝てしまう“だいず”も、両方ともみごとなおバカ。
君たちはりっぱな子ねこであることを、ここに表します。
このマンガ、ねこ目線で描かれた家族のお話ですが、主人公っぽい女の子が一番ふつう。なんとねこ嫌いのおかあさん“モジャ”(もじゃもじゃあたまだからね。ねこたちが勝手につける人間のあだなもおかしい)と無口だけど心やさしいおじいちゃん“肌色”、フィギュアおたくのお兄ちゃん“メガネ”、自由自在に姿を消す!? お父さん“座敷おやじ”とにわとりの“にわ子”の大家族。
それぞれのキャラクターとねこたちのやりとりがおかしくて、ついついふきだしてしまうことも。

好きなのはやっぱり肌色との場面。じいさん好きのわたしにとって、このじいさんは心底なごみます。目が覚めて自分のおまたで、子ねこたちがまるくなって寝ているのを見て、何も言わずにもう一度ふとんをかぶるところは、もう、きゅんですよ。きゅん。
ことばは全体的にも少なめ、絵もえんぴつ? みたいなのでゆるーく描かれているのですが、表情や間でものすごく伝えるのですよ。くすっとしたり、ほっこりしたり、きゅんきゅんしたり、、はてはほろっとしたりさせられてしまうのです。おみごと。

なぜか関西弁でしゃべる“あずき”と“だいず”のゆるい、、、ゆるすぎる会話も、なごむ! これはもう、ぽかぽかのえんがわでほうじ茶くらいの癒し効果があると思われます。
でも、宣伝コメントにあずきとだいずについて「なぜか関西弁? のボケとツッコミでとっても仲良し!」と書いてありましたが、、、、
いやこれボケとボケやんかー!!
(酒井七海)

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『ぼくの最高の日』はらだみずき 実業之日本社 9784408536262 \1,575

 72歳のマスターが営む「バー・ピノッキオ」。そこには連日、様々な客がやってくる。文具店勤務の女性、リサイクルショップ経営の青年、三年目の新人編集者、謎の中年男性……たやすくない日々を歩む彼らの“人生で最高の日”とは? 幸せの物差しを知るためのクエスチョン。そこから、彼らの人生が見えてくる。困難な日々を送る全ての人に届けたい、心にしみる、あたたかな物語。(実業之日本社HPより)



「香菜里屋」、「「五兵衛」、「スリーバレー」、「兆治」、「ブルーノ」、「るヰ」、そして「カフェ・アメリカン」。唐突に列挙致しました七つの名前、はてさて一体何でしょう? 実はこれらは皆、私が個人的に行ってみたいと思っている酒場の名前。と言っても残念ながら実在する場所ではなく、小説や映画の中で重要な役割を果たすお店です。どれが何という作品に出て来るか、皆さん幾つ分かります?
 ってなナゾナゾはひとまず措いといて、本日はここに、もう一軒素敵なお店を紹介させて頂きます。

 場所は多分、都心を外れた都内のどこか。駅から住宅街へ向かう歩道の脇の、薄暗い階段を下りた地下一階。客席はL字型のカウンターに僅か八席。従業員は、白髪の老バーテンダーが一人だけ。それが、『ぼくの最高の日』の舞台となるバー、「ピノッキオ」。
 正確に言うと、「ピノッキオ」を舞台に何かドラマが繰り広げられる訳ではなく、「ピノッキオ」を訪れる常連客たちが、グラスを傾けながら過ぎし日々を振り返ったり、明日の生き方に迷ったり、新たな一歩を決意したり、その相談役と言うか聞き役を老バーテンダーが務める、という趣向。
 登場するのは、一人っきりのクリスマスが定番になった、アラサーのワーキングウーマン。余り流行っていそうもないリサイクルショップを営む三十男。大ポカをやらかして自信を失くしている女性編集者。小さな出版社からデビューは果たしたものの、その後は鳴かず飛ばずの小説家。
 そんな彼らが語るのは、例えば、失ってきた恋の中で唯一後悔している別れ、高校生の頃の不器用な恋の駆け引きの想い出、仕事の浮沈、家族との別離、諦めきれない夢、etc……。そして、「ピノッキオ」のたった一人の従業員、老いたバーテンダーが、彼らの話に口を挟むでもなく静かに耳を傾ける。

『ぼくの最高の日』ってタイトルを聞いた時には、なんだか過去の栄光にすがってるような後ろ向きなストーリーをイメージしたんだけど、読んでみたらむしろその逆。後悔していることや、胸に引っ掛かっていること、謝りたいことや、もう一度チャレンジしたいこと。未消化だったそれらのことに登場人物たちは、それぞれの方法でけじめをつけることで新たなスタートラインに立とうとする。その「けじめのつけ方」を描いたのがこの作品。
 忘れられないことを無理に忘れたふりをしてみても、それは魚の小骨のように心に刺さって容易に抜けるもんではない。そう、自分で自分は騙せないのだ。ならばもう一度真正面から向き合って、自分の気持ちにケリをつけた方が得策だろう。

 物語の終盤、一人の人物が自分自身に言い聞かせるように、同時に高らかに宣言するように、言い放つ。
【人は、自分にとって最高の瞬間を更新するために生きているのかもしれない。あるいは、人にはそれぞれ最高の瞬間があって、その日の記憶を明かりや杖として、困難な人生を生き抜くのかもしれない】
 将来、何かちょっと困ったり躓いたりした時に、自分自身の支えになってくれるような最高の瞬間を、明日から幾つ作っていけるだろう? そんなプチポジティブな読後感が気持ちいい一冊。

 そうそう、冒頭のなぞなぞの答えは順に『花の下にて春死なむ』(北森鴻)、『テロリストのパラソル』(藤原伊織)、『邪馬台国はどこですか』(鯨統一郎)、『居酒屋兆治』(山口瞳)、『てのひらの闇』(藤原伊織)、『雨やどり』(半村良)、『カサブランカ』(監督:M・カーティス、主演:H・ボガート、I・バーグマン)でした。
(沢田史郎)

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『卵をめぐる祖父の戦争』デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹[訳] ハヤカワ文庫 9784150412487 \945
「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた。軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?――戦争の愚かさと、逆境に抗ってたくましく生きる若者たちの友情と冒険を描く、歴史エンターテインメントの傑作。(早川書房HPより)



どうやらこれは、とても奇妙な話のようである。
タイトルがまずほんのり、、、おかしい。
『卵をめぐる祖父の戦争』ふつう、卵と祖父と戦争はなかなか結びつかない。
朝のオムレツの焼き具合をめぐってのじいさんとお手伝いさんの戦争か、、と思ったが、どうやらレニングラードの話なのだという。いや、まじめなやつぢゃんそれ。

ナチスドイツによるレニングラード包囲網の下、主人公の少年レフはひょんなことから脱走兵のコーリャとともに、大佐から「卵1ダースを見つけてくること、さもなくばおまえらの命はなーし!」という命を受けてしまう。その日食べるパンのひとかけすら見つけるのが難しい包囲網の内側で、卵なんて虹の中の霞のような存在だった。
ほら、あらすじを聞くだけでも充分、奇妙でしょう。

わたしは自分の“なんか変”とか“どうも奇妙だ”というレーダーはわりと信用している。
“これはいい話っぽい”とか“感動しそう”とかのレーダーよりもずっと高確率であたるのである。
そう、この『卵をめぐる祖父の戦争』大大大大大傑作でした。

卵をなんとしてでも探し出さなきゃならなくなったレフと、コーリャは、アリ一匹はい出すのも難しい包囲をかいくぐり、外へ向かう。
旅の途中、二人が見るのは想像だにしなかった戦争の現実だった。飢えて飢えて、あまりにも飢えて人間の肉を喰らいだす夫婦、ドイツ兵に陵辱され続ける少女たち、爆弾をその身に背負わされ、敵地に離される犬たち、、、。
目を覆いたくなるような、悲惨な状況がつづく。

そんな中、コーリャがずっと心を悩ませているのは・・・
う○こがでないこと!
まったくこの品のないロシア人は、いつ自分たちも死ぬかわからないような状況の中、朝から晩までしゃべりまくり、レフを果てしなくうんざりさせる。
う○こがでないのは確かに問題だが、とりあえず今はこの状況からぬけだすことが一番なんでないの?
おいおい、この調子でふたりは卵を見つけられるのか、、、。

しかしながら、このコーリャの存在が物語に絶妙な軽さとユーモアをもたらしてくれるのだ。
生意気なのに、なぜか人から気に入られてしまう人がときどきいるけど、コーリャはまさにそれ。あーまたそんなこと言って! とひやひやさせられる場面は数多く、それでも敵にまで気に入られてしまうので、やれやれ感ハンパない。
レフもうんざりしつつも、少しずつ心を許してしまう。このふたりが心通わせていく様もものすごくいい。
悲しみは常にある。でもそこに笑いがあると少し救われるんだ。

戦争は、誰もが誰かを殺し、憎み、不幸にする。そのうえ誰も悪くない。いったい誰のせいで何のためにこんなことになっているのか、誰にもわからないもの。
その中でユーモアを忘れず、懸命に生き抜こうとしている人たちの姿に、胸うたれなければ、平和ぼけも極みである。

ラストは滝のように泣いた。
悲しみだけではない。救いはある。
最後の一文に心すくわれた。
(酒井七海)

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『ジャッジメント』佐藤青南 祥伝社 9784396634117 ¥1,680

 人気プロ野球チーム「東京アストロズ」の監督・榊龍臣が殺された。逮捕されたのは、戦力外通告を受けた元投手・宇土健太郎だった。弁護士・中垣拓也は、容疑を否認する宇土を担当することに。二人は高校時代、チームメイトで親友同士だった。公立校の弱小野球部に現れた、絶対的エースが起こした奇跡。土と汗の匂い、初恋の痛み、仲間との約束……封印した記憶が砂塵のように脳裏を舞う。無罪は証明できるのか? そしてあの夏の日に交わされた誓いとは――?(祥伝社HPより)



 まず第一に、高校球児の最後の夏を描いた青春小説として、一級品である。第二に、冤罪事件を巡るリーガルサスペンスとしても、グイグイ読ませる。そして何より、同じ夢を見た若者たちの友情の物語として、年間ベスト級の逸品である!! 去年の何月号だかで『消防女子!!』(宝島社文庫)をベタ誉めした記憶があるんだが、その佐藤青南さんの最新作は、活き活きした人物造形とディティールに拘ったセリフ回し、計算し尽くされた構成によって、青春小説ファンとミステリーファンを同時に唸らせる傑作である! であるであるである!!

 主人公の中垣君は、二十五歳の新進気鋭の弁護士さん。今度担当するのは、プロ野球・東京アストロズの榊監督を殺害したとされる被疑者の弁護。冒頭は、被疑者の男との接見の為に中垣が警察署に出向くシーンから。留置管理課員の露骨な嫌がらせを理路整然と退けるところを見ると、若いとは言え度胸が座っていて頭もなかなか切れる様子。そして接見室で対面したのは、六年振りに顔を合わせたかつてのチームメイト、長崎県立島原北高校野球部のエース、宇土健太郎だった。という第一幕。
 中垣が島原北高校に入学したころ、野球部は県予選で二、三回も勝ち抜ければ上出来という弱小校だった。甲子園なんて、まさか本気で目指している部員は一人もいなかった。それを、宇土がひっくり返した。宇土の超高校級のピッチングに引っ張られて周りの守備も精度を上げ、甲子園出場はいつしか、「夢見るもの」ではなく「目指すもの」へとその色彩を変えた。
 が、何かがあった。……らしい。六年前、宇土が中垣たちチームメイトに最後に発した言葉――おれとおまえらは、友達でもなんでもなか。金輪際、おれの人生に関わってくるな。
 以来音信不通となったエースはその後、ドラフトで東京アストロズに指名され、一軍と二軍を何度か行ったり来たりして、去年、戦力外通告を受けて退団した。そして今、チームの監督を殺害した被疑者として、アクリル板を挟んで中垣と対面している。検察は状況証拠も物的証拠も抑えて、万全の構えで宇土の起訴に踏み切った……。

 ってな物語の中で、複数の要素がとにかく読者を引っ張りまくる。
 まずは、頻繁に挟み込まれる中垣の回想。ぐいぐい力をつけていく島原北高野球部は、最後の夏、果たしてどこまで勝ち上がることが出来たのか? この部分だけでも、独立した青春小説として二読三読に価する。そして六年前、宇土と中垣たちとの間に何があったのか? あれほど一丸となっていたチームに亀裂を生じさせたものは何なのか? 実は冒頭のプロローグから何と無くの予想はつくのだけれど、では何の為に彼らはそんなことをしたのかという謎は皆目分からず、先が気になってしょうがない。
 そして現在パートで興味を引くのは、言うまでも無く事件の真相。複数の目撃証言もあり、凶器とされるバットからは宇土の指紋が検出されたという絶対的に不利な状況で、果たして中垣は、宇土の無罪を勝ち取ることが出来るのか? 更には、細部にまでこだわった法廷での丁々発止は息を忘れるほどの緊迫感で、一度読み出したが最後、余程の意志の堅さが無いと中断するのは難しいだろう。

 そして、事件に全て決着がついた後の最終章。言わばエンドロール的な付け足しだろうと思って読んだら、まんまとやられた。こちらの予断を見事に裏切る返し技に、涙腺が一気に崩壊。これ読んだら誰だって、島原北高校ナインの友情に幸あれと、願わずにはいられない筈。いやぁいいもん読ませて貰ったぞ!
 折しも、夏の甲子園予選まっさかり。『栄冠は君に輝く』なんかがテレビから漏れ聞こえて来る中、もう一度頭からゆっくり読み直そうかと思っている。
(沢田史郎)


(*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) (*`▽´*) (∩.∩) ┐(´ー)┌ (*´∀`) 

新刊情報
『読書日和 7月号』を作成した時点での情報ですので、変更になっている可能性があります。正確な情報は、各出版社にお問い合わせ頂くか、各社のHPなどをご覧下さい。
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編集後記
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書店員のつれづれ四コマ『本屋日和』
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by dokusho-biyori | 2013-07-25 10:00 | バックナンバー